西尾純の傾舞(kabuku-mai)と環境教育

昨年度のCGNの環境教育プログラムでは、西尾純さん(フィリピンではJUN AMANTOという名前で活動しています)が提唱する独自の身体パフォーマンス「傾舞(=kabuku-mai)」のワークショップを、ボランティアで来比してくださったJUNさん自身の指導で何度か開催しました。対象は山の村の高校生、バギオ市のアーティストたち、フィリピン大学やセント・ルイス大学のダンス・グループのメンバーなどなど。

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↑マウンテン州バナウ村でのワークショップ

「傾舞の創始者であるJUNさんの公演を観ると、素敵な着物で踊ることが多いし、能面を使うし、一見とても和風なトラディショナルなダンスを独自にアレンジしたものかのように思えます。なぜ、その「傾舞」が、CGNの環境教育プログラムなのでしょうか。

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            ↑2009年9月「The Remains」公演(VOCAS)
             Photo by Erik Liongoren
   

一度、JUNさんの身体表現ワークショップに参加していただくとよくわかりますが、傾舞が提唱する基本の身体の動きは、身体の中に二つの軸があるという考えです。バレエに代表される西洋のダンスの身体の動きは、身体の真ん中に1本の軸があって、その軸をできるだけぶれないようにしっかり固定して、それを中心にくるくる回転したりするわけですね。
ところが、JUNさんのワークショップでは、おサムライさんの刀を持ったときの身体の動きに例をとり、日本人の伝統的な身体の動きは、徹底的に西洋のそれとは違うことを説明してくれます。
 日本人は伝統的身体に縦に二つの軸が通っていて、その二つの軸に交互に重心を移動させることで、身体の動きを促していると。それは、無理な力のかからないとてもスムーズで自然で、しかも合理的な動きであると教えてくれます。

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          ↑セント・ルイス大学でのワークショップ
          Photo by Erik Liongoren

 さらに、二つの軸があるという身体表現のあり方は、人の考え方にも影響を及ぼしているそうです。西洋の人々は、その身体の動かし方と同様に、人々が集ったときに必ず中心になる人を求めます。誰かが真ん中にいて仕切ってくれなければ、どうしていいかわからない混乱状態に陥るそう。しかし、身体に二つの軸をもつ日本人は、本来、「中心」というものを求めません。身体の真ん中は、空洞になっていて、そこからあらゆる情報を取り入れることができます。あらゆる情報というのは、(たぶん)他人の考えや、その場の空気や、自然の気配や、神様の意思などなど、文字通り“あらゆる”環境です。そして、他人の考えを受け入れながら、おたがいを尊重して合意を見出すことができるといいます。

 JUNさんは言います。
「西洋の国の人は、環境を語るにも額にシワを寄せ、問題を提起し、解決に取り組もうとする。でも、日本人は、環境を身体の中に受け入れ、それを理解しようとする」。
なるほど。

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     ↑photo by Ruel Bimuyag       
 
世界中を傾舞の公演やワークショップのために旅しているJUNさんは、この身体に二つの軸を持つという身体の動きは、日本のおサムライさんだけではなく、環太平洋の島国の人たちに共通した身体の動きであることを発見します。

JUNさん、もちろん、島国・フィリピンでも二つの軸を持つ伝統ダンスを探して旅してきました。西洋の影響を強く受けているフィリピン文化の中でなかなか出会えなかったそうですが、昨年、キープ協会とCGNが協力して開催した「コーディリエラ・ユース・エコサミット」(カリンガ州ルブアガン会場)でのカリンガ族高校生の伝統舞踊に、その動きを発見しました。しかし、ルブアガンといういまだ閉鎖的な伝統文化と慣習に支配されているかのような山奥深い村においてさえ、西洋の影響が見られ、伝統的な二つの軸を使った動きで伝統舞踏を踊っていたのはごく一部だそうです(素人の私には、まったく違いがわかりません! なさけない・・・)。
  (JUNさんの北ルソンの旅の体験談は彼のブログで。)

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    ↑第2回コーディリエラ・ユース・エコサミット(ルブアガン会場)での高校生の伝統ダンス
    Photo by J.P.Alipio

CGNの環境教育ワークショップでは、「気候変動とは?」とか「地球温暖化とは?」といった環境問題についての知識を教える講演も行なってきましたが、同時に自然を感じ、自然を愛しく思う気持ちを育てようというアートを取り入れたワークショップも多数行なってきました。多くが自然と共生してきたはずの山岳民族の伝統文化の再生にもつながるワークショップでした。楽しみながら学ぶ「楽習」もCGNの環境教育ワークショップの大事なコンセプトです。

まったくかけ離れているようで、JUNさんの「傾舞」身体表現ワークショップは、まさにCGNのやりたい環境教育の手法にぴったりでした。しかも、CGNは、最近、演劇を使った、つまりを身体表現を使った環境プログラムに力を入れていて、二つの軸の真ん中を空洞にして、そこに「環境」を取り入れて身体を動かそう、というのは、基本的でありながら、本質的で、感じる力をよみがえらせるすばらしい体験になります。
(実のところ、頭でっかちの私は、JUNさんのワークショップにおける劣等生の筆頭なのですが)
   
   
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↑Photo by Erik Liongoren

ここまでの話は、傾舞ワークショップのほんのほんのカケラ。JUNさんのワークショップでは二つの軸を基本としたさまざまな身体表現の仕方を気づかせてくれます。自分が今まで何十年も付き合ってきたはずの身体のことを何も知らなかったこと、身体が本来あるべき姿、身体を使った表現の可能性などなど、新たな驚きと発見に満ちています。

私を含むすっかり自然と隔離してしまった日本人より(頭で自然や環境を理解しようとする力が働いてしまうということね)、コーディリエラ地方の山岳民族の高校生たちのほうが、身体でJUNさんの傾舞の理論を受け入れているのを感じます。うらやましい。

4月を迎え、CGNの環境教育プログラムも新しい年度の活動を開始します。JUNさんの傾舞が山岳民族の若者による演劇表現にどんな影響を与えてくれるか、楽しみです。

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       ↑Photo by Erik Liongoren

JUNさんの、傾舞公演のスケジュールはこちらのブログにあります。
ぜひ、一度、体験してみてください。
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by cordillera-green | 2010-04-04 01:03 | 環境教育

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