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天楽企画・中川博志さんがバギオに来た日

 2010年10月23日に大阪万博記念公園 自然文化園 お祭り広場にて、天楽企画の代表で、インドの横笛・バーンスリ奏者の中川博志さんたちが企画している「1000人で音楽する日。」のことでメールのやり取りをしている中で、中川さんが懐かしい記事を送ってくださりました。
10年前、2000年5月に中川博志さんが、フィリピンに来てくれたときのことをWEBに書いた記事です。


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 9月の京都芸大集中講義のとき、日本からインドまでの地図を 学生に書いてもらいました。精度はまちまちでしたが、一つだけ共通点 がありました。それは、全員の地図にフィリピンが抜け落ちているので す。どうも、彼らにはフィリピンの印象はとても薄いようです。わたし も実は、2年前にAFOツアーでマニラへ行く前までは、彼ら と同じでした。  そのフィリピンへ、5月の連休のあと、河内長野市ラブリー ホールの宮地泰史さんと行きました。目的は、バギオ市に住むカリンガ 族のアーネル、エドガーのバナサン兄弟に会い、彼らの竹の楽器の製作 や音楽を習うことでした。  この兄弟を知るようになったきっかけは、南浦和に住む友人の映像作 家、鎌仲ひとみさん、通称カマチャンの借りている家のオーナーが、 アーネルの奥様、反町真理子さんだったからです。そして、なんと都合 がよいことに、アーネルはカリンガ族出身のミュージシャンだったので す。  
 カリンガ族の竹の楽器による音楽は、ホセ・マセダの『ドローンとメ ロディー』(高橋悠治訳、1975)や、『ウドゥロッ・ウドゥ ロッ』(30人から数千人にいたる演奏者のための音楽)とい う作品、ビクターから出ている映像『世界民族音楽大系』などでなんと なく知ってはいました。しかし、直接フィリピンまで出向いて、楽器や 音楽に触れたのは今回が初めてです。 バギオ市  彼らが住んでいるのは、マニラから車で7時間ほどかかる山上 都市、バギオ市です。ねっとりとした暑気の充満するマニラに比べて涼 しく、海にも近いため新鮮な魚介類や、野菜も豊富です。坂なりに展開 する中心街の混雑した市場には、道の両側に魚や野菜を売る小さな店が びっしりと連なり、買い物客であふれかえります。またここは、フィリ ピンの金持ちたちの別荘地としても有名で、広壮な別荘があちこちに点 在しています。全体の雰囲気としては、イギリス人たちの開いたインド のシムラーやダージリンといった植民者避暑地を思い起こしました。  熱帯の土地にいることを忘れさせる避暑地ですが、コルディレイラと いわれる山岳地帯からの人々の流入、無計画な乱開発などで問題も多い ようです。排気ガス規制などてんで関係のなさそうな自動車の多さによ る大気汚染が強烈です。また、水問題が深刻です。なにしろ山のてっぺ んに開かれた町なので常に水不足です。家々には必ず雨水を貯めるタン クがあります。アーネルたちの家では、バケツに貯めてある水を使って トイレやシャワーに使い、飲料水は買っているということ。

カリンガの楽器と音楽  

 バナサン家にはそのとき、アーネル・真理子夫妻、アーネルの弟エド ガー、長男アラシ、次男ビリク、生まれたばかりの長女キカ、ひょろっ としておとなしいローウェル、大学で観光学を学ぶ18歳のリオの 8人にわれわれが加わり、総勢10人いたことになります。またと きには、カリンガから元気なお母さんがやってきたり、9歳の息 子ミラを連れたアーネルの姉のジョスリンなどもやってきて、とにかく 出入りの忙しい家です。  さて、居候のわれわれは、毎日、楽器素材である竹を近所の山に行っ てとってきたり、楽器を作ったり、それで音楽を習ったりしたのであり ました。  かつては首狩り族であったというカリンガ族の音楽は、実にシンプル です。いろいろな形の楽器が竹から作られますが、音楽の基本はすべて 同じです。一人一人は、単純なリズムパターンを繰り返すだけです。ソ ロ演奏はありえません。必ず、6人が一組になって演奏される。 ただし、全員で同時に打ち出すのではなく、同じパターンを次々に半拍 ずつずらす。すると、単純なリズムパターンは錯綜したうねりをもって くる。半拍ずつずらす、というのは最初はなかなか把握できませんでし た。しかし、慣れてくると全体の音のうねりに埋没していくような、ト ランスにおちいるような気分になるのです。アーネルは「カリンガの音 楽を楽しむには、友達にならなければならない」といってましたが、ま さにその通りで、一人だけ目立とうとするとたちまち調和が崩れ去って しまう。個人の技術や表現力だけが重要なインド音楽とは対極にあると いえます。

バギオからマニラ

 カリンガ楽器徒弟生活のバギオから、お土産の野菜をもってマニラの グレース・ノノの家に4泊、居候しました。彼女は、AFOツ アーでずっと一緒だった素晴らしい歌手です。不快指数100点満 点のマニラだというのに、家にはエアコンがなく、しっかりと熱帯生活 を満喫しました。彼女の家ではほとんどなにもせず、つい最近演奏活動 を再開した夫のバークレー卒ギタリスト、ボブ、グレースのそっくりコ ピーである娘のタオとおしゃべりの日々でした。  日曜日、グレース一家と映画を見ようとメガモールへ行きました。メ ガモールは、巨大なショッピングセンター。エアコンギンギン空間なの で、涼みに来る人たちでいっぱいでした。なかに映画館がかたまったフ ロアがあり、われわれは、そこにトイレ近辺で何を見ようかと午後 4時ころ相談をしたのでした。次の日曜日の同じ時間の同じ場所で、時 限爆弾が破裂し死亡者を出したことを知ったのは、帰国して10日 ほど後のことでありました。フィリピンもなかなかにスリリングなので す。多民族、他言語、政治腐敗、富の分配の不均衡。フィリピンに限ら ず、植民地であったことで今もってひきずる問題の解決はかなり遠いよ うです。  

 カリンガ青年、アーネル、エドガーそして真理子さんと子供たちは、 8月に来日し、十津川村で盆踊りを楽しみ、大阪のトリイホール、神戸 のジーベック、河内長野でそれぞれワークショップを行い11月に 無事帰国しました、と書きたいところですが、エドガーだけが国内で行 方知れずとなり、現在もどこかで不法滞在者としてふらふらしている模 様です。たくましいというのか、近代法治社会的よりも部族社会的原理 に基づいて行動しているかのようであります。
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by cordillera-green | 2001-01-01 12:49 | アート