映画「クロスロード」撮影コーディネイト日記③―バギオ俳優編

 映画のロケ地がマヨヤオに加えバギオとその周辺になると決まり、主演のアローディア(コスプレ界の大スター)以外のフィリピン人出演俳優もおもにバギオをベースにしている俳優にしようという話になった(7000の島からなるフィリピンでは地域によって人の顔が違う)。避暑地であるバギオは多くの有名俳優が別荘を持っているし、マニラで活躍していた俳優でバギオの生活環境の良さに惹かれて引っ越してきた人もいる。有名な美術家を輩出してきたことで知られる文化の町・バギオであるが、知られざる名優たちがひそかに暮らしているというのもまたバギオの知られざる顔だ。

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↑バギオいちの観光名所ザ・マンションでの撮影


 コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)は、10年以上前から先住民族の村々で演劇を使った環境教育ワークショップを行ってきた。ファシリテイタ―として、そういった俳優たちにも協力を仰いできた。今回の「クロスロード」に出演の俳優選びには、そういった活動で培ってきたネットワークが大きく役立った。

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↑長田勇市氏のFBページより

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↑右から3人目がフェルディ(写真はフェイスブック「クロスロード」ページより)


 渡辺大が演じる世界遺産の棚田に赴任した農村開発隊員のカウンターパートの農政課職員・マニー役には、フェルディ・バラナグ。フィリピン大学バギオ校で演劇を専攻し、卒業後も主に舞台で俳優や演出家として活躍してきた。フィリピン大学創立100周年記念の演劇制作でも演出を担当するなどの実力派。最近はドキュメンタリー映像作家としても活動し、国内外で数多くの賞を受賞している。2009年にCGNが演劇ワークショップをマヨヤオの高校で行ったときに、ファシリテイターとしてお願いしたのがフェルディだった。そして、そのとき彼が滞在させてもらっていたタパイさんの家が、今回の映画でも農政課職員の家として登場した。


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↑一番右がハンジョン

 黒木啓司(EXILE)が演じるカメラマン沢田が赴任する観光省の同僚を演じたのはハンジョン・カプーノ。5歳の時に今泉光司監督の「アボン―小さな家」で初映画出演。父親が舞台俳優・演出家であったこともあり、小学校卒業後はバギオ市立ハイスクールでパフォーマンス芸術を専攻し、俳優としての英才教育を受けた。大学はバギオの名門カソリック大学、セント・ルイス大学(SLU)で心理学を専攻。フィリピン国内でもトップクラスの劇団といわれる「Tanghalan SLU」に所属し、中心的俳優として舞台に立った。本映画出演後、6月に大学を卒業。将来は映画監督にも挑戦したいというハンジョン。今後の活躍が楽しみな若手俳優だ。



 黒木啓司が演じるカメラマン沢田の上司を演じたのはカルロ・アルトモンテ。ハリウッドで知られていた某有名女優の血を引く舞台俳優。俳優一家で育ったため、オーディションでは「子供のころから演技とともに育った」「僕は学校にいっていない。大事なことは皆ステージで学んだ」と堂々と話したカルロ。拠点としていたマニラから子供たちの教育のために治安のいいバギオに引っ越し、「Open Space」という市民劇団を主宰している。イタリア人の血の混じったハンサムな風貌、堂々とした体格、さすがの血筋か放つオーラもただものではない。撮影ではまったく危なげのない演技でスタッフをうならせた。


 台本を読ませてもらった時から、この役を演じられる女優をバギオで探すのは難しいかもしれないと思ったのが、アローディア演ずるアンジェラの友人・シンディ役。鉱山での作業シーン、出産シーンなどがあり、かなりの演技力が必要と思われた。考えていたマニラ・ベースの女優さんのスケジュールが合わず、フィリピン大学在学中に劇団に所属して演劇を志し、卒業後はCGNの演劇を使った環境教育ワークショップ事業のスタッフをして働いていたカルラに声をかけた。2011年にCGNが主催した先住民族青少年による劇団「アナク・ディ・カビリガンAanak diKabilingna」の日本公演を行ったときも、スタッフと連れて行ったはずのカルラは、リハーサルを見ているといてもたってもいられなかったようで演出家に頼みこんで舞台に立った。いまでこそ女優を仕事にはしていないが、心から「演技」愛するカルラである。

オーディションでのカルラに、すずき監督は「貧しい女性の役柄だが、彼女に清潔感があって、観客の共感を呼ぶだろう」と見事にこの難しい役を射止めた。

 TAO演ずる助産婦にサポートされながら不正出産をするシーンでのカルラの演技は圧巻だった。「現役の女優でないなんて信じられない」と演出スタッフ。演技が終わって宿に戻っての夕食で、スタッフに味噌汁をよそう謙虚な姿勢も好感をもたれた。映画や舞台産業のないバギオだが、大好きな演技の機会が増えていくことを願う。


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↑笑顔のかわいいケリー君(写真はフェイスブック「クロスロード」ページより)

 もっとも人選に苦労したのが、黒木演ずるカメラマン沢田が市場で出会った貧しい少年・ノエル。バギオでオーディションを行い20名以上のかわいい子供たちが集まったが、今一つ決め手に欠けた。CGNが昨年、マウンテン州カヤン村での劇団ア・ラ・プラスの演出家&俳優である杉山剛志氏の演劇ワークショップ開催のお手伝いをしたときに、才能を発揮した参加者の少年のことを思い出した。今年2月に同じ村で現代美術家・梅田哲也氏のパフォーマンス作品の制作をした時も少年は参加者リストには入っていなかったが、会場の小学校講堂の窓から興味深げに覗き込んでいて、特別に参加してもらうことにしたら実に楽しそうにパフォーマンスの輪に加わっていた。

 カヤン村はオーディションをしていたバギオ市から車で5時間の穏やかな棚田の村だ。ロケハンとオーディションのために来比していた監督とスタッフの滞在期間はあと1日だったが、カヤン村の知り合いに頼んでテストが終わったばかりという少年を5時間かけて連れてきてもらった。ほかの子供たちへのオーディションでは一言も口を挟まなった撮影監督の長田勇市氏が

「この子にしよう。全然違うよ。顔が。表情が」

とコメントして、あっという間にノエル役は彼に決まった。

 少年=ケリー君の家は、映画の中の少年そのままに貧しい。両親は別居していてお金を稼ぎために母親は町で英語の家庭教師の仕事をし、父親は鉱山で抗夫として働いている。14歳のケリー君は二人の弟と一人の妹をみて子供たちだけで暮らしていた。栄養が足りていないせいかちょうど役柄の11歳くらいにしか見えない。両親からの仕送りがないこともあり、ケリー君は弟妹を食べさせ、学校で必要なものを買うために村で力仕事を手伝って学校にいけない日もある。映画の中のノエルに自分を重ねることも彼には容易だった

 映画が大好きというケリー君。渡された台本を繰り返し読みこんで、役柄のイメージを明確に描いて撮影現場に現れた。ときにすずき監督に「僕はこういうふうに演技したい」と意見さえ述べた。すずき監督もていねいに彼の意見に耳を傾けてくれた。

 ケリー君にとってこの映画出演の経験は決して忘れられない経験となっただろう。撮影終了後、「映画できたらDVDちょうだいね」と、無邪気に笑ってまたまた5時間かけて弟妹たちの待つ村に帰ったケリー君。手にした出演料から、ずっとほしかった携帯電話を買ってとてもうれしそうにしていた。

「残ったお金はとっておいて兄弟の学校に必要なものと食べ物にするよ」

そんなケリー君のことを「クロスロード」プロデューサーの香月氏に話したところ、CGNがやっている奨学金プログラムを通してケリー君の学費をサポートしてくれると申し出てくれた。新学期が始まり、ケリー君から香月氏あてにイラスト入りのかわいいお礼の手紙が届いた。

「僕は学校を出たら軍隊の特殊部隊に入るのが夢です。でも、アーティストとしていつでも僕が必要だったら、声をかけてね。いつでも行くよ」

アクション映画が大好きなケリー君らしい夢。軍や警察は山奥の村では男子にとってはほとんど唯一の安定収入を得られる仕事でもある。彼の夢に新しい選択肢が加わった。

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 ケリー君演ずるノエルの8年後の青年役には、カリンガ州バルバラン出身のカート・フェルナンデスを推薦した。CGNが主催してきた演劇を活用した環境教育ワークショップにほぼ皆勤賞で、ワークショップ参加者による劇団「アナク・ディ・カビリガン」でおいつも素晴らしい集中力で中心的な役を演じてきた。なによりも同じ役柄の子供時代を演じる役のケリー君と同じく山岳地方の山奥深い村の出身の先住民(カリンガ族)でどこか似た雰囲気があった。

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↑長田勇市のFBページより

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↑カートが主役の「犬」を演じたアナク・ディ・カビリガンの舞台
(2014年マニラTIUシアター)


 CGNの環境ワークショップへの参加をきっかけに演技の面白さに目覚めた俳優たちはほかにも何人か小さな役で出演した。スタッフとしても大活躍してくれたロジャー・フェデリコ。マヨヤオの食堂の定員を演じたベントール・ガナド。マヨヤオでの隊員の歓迎会と結婚式のシーンでイフガオの民族衣装でダンスと歌を披露してくれたのはイフガオ州国立大学(IFSU)でのワークショップに参加したヘイゾン・プマール、レスター・バロットなどの本場のイフガオの踊り手たち。

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 映像では見られないが、撮影を陰で支えたのは撮影現場でコミュニティとの交渉を辛抱強く行ってくれたフィリピン人コーディネイターたちだ。山岳地方の隅々まで自然と文化を知り尽くし撮影コーディネイト、文化人類学者の調査、ツアーガイドなどとして世界中の来訪者から引っ張りだこのルエル・ビムヤッグ。金庫番のジェネビブ・ゴメス、ドキュメンタリー撮影経験から鉱山開発地域での難しいコーディネイトを担当してくれたジックス・ゲレロ。本物の坑夫エキストラ探しに奔走してくれたCGNの運転手・フレディ・ドンガン。病院シーンでのコーディネイトを担当したCGNスタッフ、リリー・ハミアス。結婚式シーンのコーディネイト担当のCGNスタッフ、レナート・ギリンゲン。

 マヨヤオでのドジョウ養殖シーンの撮影に使う、本物のドジョウ準備・運搬を協力隊員の渡辺樹里さんとともにしてくれたジェイソン・タグユングン。英語の通じない日本人美術スタッフと悪戦苦闘しながらきめ細かいアシストをしてくれたマレン・ロシート。バギオを代表する映画監督でもありフィリピンならではの生活をセットにフルに表現した美術マーティン・マサダオ。マニラベースでありながらコーディリエラ山岳地方の文化をこよなく愛し、山岳地方での映画撮影に多く参加している衣装担当のマルタ・ラヴィーナ。マヨヤオで撮影隊のために料理の腕を振るった平嶋美和。臨機応変に日本人撮影隊とフィリピン人俳優・スタッフとの通訳とアローディアのアテンドをこなした加藤将広。誰一人一度も遅刻しせずエキストラとしても快く撮影に参加してくれたドライバー陣。。。。すべての人の名前を上げきれないが、青年協力隊員たちの世界各国での活動そのままに、日本人とフィリピン人の俳優・スタッフが手に手を携えてこそ、フィリピンでの撮影を成し遂げることができた。すべての関わってくれた人に感謝!


映画「クロスロード」予告編映像はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=0z8YyrxgGtk


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↑フィリピン側美術スタッフ マーティンとマルタ

(長田勇市氏のFBページより)

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↑シェア&ゲストハウスTALAでも撮影された。

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↑協力隊員・渡辺樹里、ルエル・ビムヤッグ、
プロデューサー・香月秀之、助監督・出射均

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↑ほとんど1ヶ月間、家をあけっぱなしだったが
不平一つ言わず協力してくれたキッズたちよ。ありがとう~


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by cordillera-green | 2015-11-27 12:00 | 映画「クロスロード」

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