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環境教育インストラクター・光橋翠さんからの活動報告

 

 コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)が地球環境基金の助成を受けて実施してきた「フィリピン・ルソン島山岳地方マウンテン州縫置ける教育職員を対象とした環境教育指導者養成講座」。3年間の最後のプログラムは、日本でスウェーデンの環境教育プログラムをモデルとした幼児向けの自然教育プログラムの普及活動をしているサステナブル・アカデミー・ジャパン(SAJ)のお二人を講師にお招きました。

 SAJ2012年にJICAフィリピン事務所と協働で2回にわたり「子ども向け環境教育ワークショップ~野外環境教育の理論と実践スキル~」と題した環境教育ファシリテイタ―養成講座をマニラにて開催しました。CGNからも環境教育プログラムを担当するスタッフが参加させていただき、その後、その講座で学んだ手法をベースに山岳地方の自然環境や文化に即した内容にアレンジして、特に小さな子ども向けの環境教育ワークショップを山岳地方の村々で数多く行ってきました。

http://www.susaca.jp/wp/wp-content/uploads/2012/11/PhilippineWSReport1.pdf

http://www.susaca.jp/wp/wp-content/uploads/2012/11/PhilippineWSReport3.pdf

 今回は3年間の事業の締めくくりとして、会場のバウコ町の幼稚園、保育園、小学校低学年の教員を対象としたワークショップを実施していただき、また、継続してきたCGNの幼環境教育プログラムに対するアドバイスをいただきました。

 今回、ファシリテイタ―として参加下さった光橋翠さんが、日本野鳥の会筑豊支部の機関誌に寄稿した活動報告を転載させていただきます。

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 2016314日(月)、NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)代表の反町眞理子さんの招待を受け、フィリピン・マウンテン州バウコ町にて、小学校・幼稚園の教諭を対象とする、自然教育指導者養成講座に講師(サステナブル・アカデミー・ジャパンの下重喜代と光橋翠の二名)として派遣される運びとなり、野外教育の手法を学ぶ研修を行いました。


【研修会場までの道のりにて】

研修前日にCGNが拠点を置くフィリピン北部ルソン島のコルディリェラ地域に位置する都市であるバギオから、会場のあるマウンテン州バウコ町へと移動しました。ジプニーというフィリピン特有の乗用車に乗り込み、5時間あまりの山道をひたすら北上しました。

 同地域は世界遺産にも登録されている棚田の景色でも知られており、どんなものかと楽しみにしながら出発したものの、バウコ町へ向かう道のりで車窓から目にした景色はなんとも衝撃的なものでした。山岳地帯の山道をくねくねと上がっていくと、やがて段々畑にすっかり覆われた山々が見え始めたのです。頂上まで畑で埋め尽くされ、そこには樹木と言えるものはほとんど生えていないのです。いわゆる共有林や水源林であろうと思われる、まとまりのある森林がほとんど見当たらないのです。

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もともとこの地域には山岳民族が先祖代々から住んでおり、棚田のある里山生活が中心であり、山地にはベンゲット松という本地に特有の松が自生していたそうです。しかし、ここ20年ほどで森林は切り開かれ、自給用のコメを作っていた棚田が姿を消す代わりに、換金作物の野菜(キャベツ、ニンジン、白菜、ビーマン、トウモロコシなど)が植えられるようになったそうです。

フィリピンでは本来このような外来の野菜を食べる習慣はなかったそうですが、マニラの大都市圏で、西洋料理の情報が入り込んだことで近年、需要が急増したとのことです。一方、この山岳に住む住民たちも教育費や燃料費などの現金収入は生活向上のために欠かせないものとなっていました。つまり、グローバル化と近代化の波がフィリピンの山奥にも押し寄せていたのです。

 マニラに4年間在住していたことのある私は、生鮮市場でまさにこの地から運ばれてくる、このような野菜を買い求めていたわけですが、バギオやバギオのあるベンゲット州と言えば、標高の高い涼しい避暑地で、新鮮でおいしい高原野菜の産地などといった良いイメージしかありませんでした。特にイチゴの名産地でもあり、イチゴ好きの日本人としては憧れの地ですらあったのです。

しかし、実際にこの地を訪れ、丸裸にされた山々の頂上まで輸送トラックが入り込んで野菜を次々に運び出しては、代わりに肥料となる鶏糞を運び込んでくるトラックが行き交うという光景を見て、これが野菜の一大産地の本当の姿だったのかと驚くと同時に、不気味で不穏な印象を受けたのです。

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 案の定、山のところどころで大規模ながけ崩れが起きていることに気付きました。また残された松林も、適切な間伐などの管理が行き届いている様子はなく、地面に日光が届かないせいか、樹木の多様性は非常に乏しく、表土が露出もしくは浸食されている箇所がいくつも見られました。

フィリピンには雨季(5月〰12月)と乾季(12月〰4月)があり、四季のある日本に比べて極端な気候なのですが、それがゆえに当地では雨季には森林の保水力がないために土壌の流出が深刻化し、逆に乾季には干ばつに見舞われるのではないかと心配になりました。さらには、近年の気候変動で台風の頻度が増え、大型化していることを考えれば、この開発の方向性がいかにこの地を自然災害に対して脆弱なものにしているかを考えずにはいられませんでした。

そのような光景を2時間ほど眺めながら走っていたでしょうか。驚きと憂鬱な気持ちに浸っていると、突如として青々とした美しい棚田と里山の風景が目に飛び込んできたのです。いよいよバウコの町に入ったのです。バウコには、なみなみと水をたたえた水田、豊かで美しい自然、水の湧き出る森林が残っていました。そして、研修会場となる小学校に到着すると、現地の先生方が笑顔と温かいコーヒーで出迎えてくれました。長旅の疲れもすっかり吹き飛んだのです。

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【バウコでの研修】

 会場となる小学校には、バウコの校区から先生方が集まりました。フィリピンの国歌斉唱と校長先生の温かい出迎えの挨拶で研修がスタートしました。「バウコの自然と子どもたちは、私たちの共通の宝であること、それらを守るために、環境教育を行うことは私たちの責任であること」を確認して、いよいよ野外へ出発です。

 野外研修の会場となったのは、美しい棚田の風景が一望できる「パリワク」と呼ばれている高原でした。そこで、子どもたちに伝えるべきエコロジーの基礎をどのように教えるかのメソッドを実技によって教授しました。なかでも、この土地で特に重要であると感じた、森林の機能(保水力、土壌流出防止、生物多様性など)と水循環(特に水源林の重要性)を中心的なテーマとしました。

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 野外でのピクニック・ランチを終えた後は、野外教育の概要を説明するレクチャーに続き、「生態系ピラミッドづくり」のグループワークを行いました。この活動は、日本野鳥の会筑豊支部長の梶原剛二氏と光橋が共同で開発したもので(本誌20159号「子どもと野鳥その2」で紹介)、身近な生き物を紙に描いて切り抜き、画用紙を円錐形にしたものに、「食べる―食べられる」の関係を考えながら貼り付けていくというものです。この活動は、地域の生き物に目を向け、命のつながりの発見を促すことを目的としていますが、その一環として、日本野鳥の会が行っているシマフクロウを呼び戻すための森林復元プロジェクト「シマフクロウの森を育てよう!」のコンセプトも紹介し、森林の生物多様性の概念を説明しました。

 バウコの先生方が制作する生態系ピラミッドも、頂点から「地元のタカ→小鳥・野ネズミ・ヘビ→昆虫やカエル→ベンゲット松などの植物→ミミズなどの土壌生物」といった生き物の構成となり、基本構造は日本の生態系と類似するものの、その土地ならではのピラミッドが完成しました。

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 その後、「ミニ地球づくり」、地球の生命誌をたどる活動、「宇宙船地球号」のグループワークといった活動を行い、地球の生態系がいかに貴重かつ有限であるかを確認したうえで、持続可能な社会をつくるためにはどのような条件が必要かを話し合いました。

 受講生の先生方は、終始とてもリラックスして楽しんでいるようでした。特にルーペを使った自然観察に興味を持ち、日本から持参したルーペの入手方法についての質問を多く受けました。最後に行ったアンケートでは、今回の研修内容を各校で実施したいという回答を多くいただきました。

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【さいごに】

 バウコにもまた、農地開発の波がすぐそこまで来ており、棚田の水田のいくつかが、すでにキャベツ畑に換えられていました。バウコの村は活気があふれているものの、人々は決して経済的に豊かな生活をしている状況とは言えません。生活水は村にある水汲み場まで子どもたちがタンクをもって汲みに来ます。もちろん宿泊先のホテルにもお湯などは出ず、水道はあるもののトイレにはペーパーもなく、電気は辛うじて裸電球がぶらさがっていただけでした。自給自足には不自由がなくとも、もし子どもにしっかりとした教育を受けさせたいと思うのなら、学校に行かせるために現金収入が欲しいと思うのは当然のことでしょう。彼らが、すぐ隣の地域のような野菜の一大産になることを夢見るのも無理のないことなのです。

現に、この山岳地帯には金脈が眠っており、土地の疲弊や後継者不足から農業を捨てて、現金収入を求めて鉱山開発へと乗り換える人々も増えていることを知りました。そして、金の精製プロセスで排出される汚染物質が地域で水質や土壌の汚染を引き起こすという新たな環境問題が起きているというのです。

水田を畑に転換するのか、伝統的な農業を維持するのか、はたまた第三の道を模索するのか。地域の行く末を選択するのは、住民自身でなくてはなりません。しかし、生活の基盤であり、農業の基盤ですらある生態系を壊してしまっては、住民の生命すら危険にさらすことになるのです。彼ら自身が地域の未来を選択する際に、基本的なエコロジーの知識を十分に持ち、自然のもたらす価値を理解することができれば、より持続可能な地域発展への道を選択する可能性が開けるかもしれません。そんな希望を抱きながら、美しい棚田の広がるバウコの地を去りました。

 しかし、当地での活動は始まったばかりです。一回の研修だけでは、まだまだ不十分なことは言うまでもありません。そして、子どもたちだけに環境教育をしたのでは、開発のスピードには追いつかないというのが正直な実感でありました。さらには、東南アジアをはじめとする多くの発展途上国では同じような問題に直面している地域が少なからずあるはずです。

日本の経験の反省を踏まえ、さらにバウコのような伝統的な棚田文化を受け継いできた人々から私たち自身もまた学び合うことで、互いに刺激しあい、地球市民として共に成長してゆけたらという思いを強くしました。


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by cordillera-green | 2016-04-14 16:58 | 環境教育