人気ブログランキング |

Cordillera Green Network ブログ

cordillera.exblog.jp
ブログトップ
2009年 11月 03日

ブルーノのこと


CGNで森林専門家として最も長く働いてくれているフォレスターのブルーノも、台風ペペンの被害を受けました。トリニダード町バホン・バランガイのトマイの自宅の半分が土砂で埋まり、さらにアトック町のカリキンの畑も土砂で流されてしましました。

台風の影響で大雨が降り、あちこちで大きな土砂崩れが起きた10月9日、ブルーノはアトック町のカリキンの畑にいたそうです。尋常ではない雨量に、ブルーノは自宅に残してきた奥さんに携帯で連絡し、子供を連れて高台のタワン地区の親戚宅に身を寄せるように指示しました。一方、自分はなんとしても自宅を守ろうと大雨のなか、すでに閉鎖されたハルセマ・ロードを、落ちてくる岩を避けながらアコップまで10時間歩き、そこで何とかジープをチャーターしてトマイまでたどり着いたそうです。しかし、到着したときには自宅はすでに半分は土砂に埋まっており、荷物を運び出すこともできなかったそう。
「眞理子さん。僕は今度の台風でほとんどすべてのものを失ってしまいました。ゼロからスタートしなおさなくてはなりません」という彼からの携帯のメッセージに、CGNの安月給をコツコツ貯め、少しずつ小さな家族のために慎ましい家を造り続けていたブルーノの堅実な努力を知っていただけに、私もやりきれない気持ちになりました。

土砂の片付けと、近づきつつあるという台風20号の備えに忙しかったというブルーノ、台風後、2週間たってようやく報告のためにオフィスに顔を出してくれました。
「あの雨の中と土砂崩れの中をハルセマ・ロードを歩いてトマイに向かったと言ったら、自殺行為だと、みんなに叱られました。でも、じっとはしていられなかった。少なくともコンクリートの家でよかったです。もし、竹やトタンで造った家だったら、きっと妻子ともども家は完全に流されていたでしょう」

彼のカリキンの畑はさらにひどい状態だそうです。カリキンは先日タジャンに行くときにハルセマで足止めをくらった30キロ地点から左に折れて3キロほどのバランガイ(村)。ブルーノはここにお兄さんが借りていた畑で、本格的なミミズ堆肥作りを始めていました。「まずは、自分の力と自分のお金でモデルとなる化学肥料や農薬を使わない畑を作って見せないと、農民は誰も動かない」と、彼は3ヶ月間、CGNの仕事をお休みし、ミミズ堆肥による畑作りと、アグロフォレストリー農場作りに専念しているところでした。わずかな自己資金を投入し、CGNの仕事休んでまで、情熱を傾けていたアトックのミミズ堆肥によるモデル農場が、あの台風ですべて流されてしまったのです。もちろんミミズも、今頃どこかの土の中を自由に動きまわっていることでしょう。

「ハルセマ・ロードからカリキンへの道は土砂崩れだらけで、たぶん復旧に1年はかかるでしょう。公道ではなく部分ごとに持ち主が違う私道だから修復するのも一気には行かないです。カリキンは、ほとんどがサヨテ農家で、道がだめな今、少しでもサヨテを売らねばと農家の人たちは50㌔入りのサヨテのサックを担いで3キロの道のりを歩いています。
僕も残念だけど、ミミズ堆肥を近隣の農家の人に広めるというプロジェクトはあきらめました。作っても運び出せない。ミミズ堆肥は重すぎます。土砂で流された畑を少しずつ整備して自分の畑だけでやります」

 死傷者は出ていないから、ニュースにもならないし、政府からのサポートもないけれども、ブルーノのように地道な努力によって少しずつ築きあげてきたものをこの台風で失ってしまった人がどのくらいいたのでしょうか。しかし、ブルーノでさえ、わたしたちのオフィスに来て自分の状況を話したのは台風の2週間後です。多くのこういったまじめな農民たちは声高に自分の受けた被害を伝えたりはしません。それは、いかに自然の驚異には抗えないかを知り尽くしている山岳民族のあり方であるのかもしれません。いかに多くの声にならない悔し涙がこの地に染みて行ったかを思うと涙が止まりませんでした。

CGNは、ブルーノにわずかばかりのお見舞金を出すことにしました。お見舞金を受取ったブルーノは「このお金を渡したら、きっと僕の奥さんはすごく喜ぶと思う」とすごく恥ずかしそうに言いました。
CGNで専門家として働いてもらって6年になるブルーノですが、何度「連れておいで」といっても、決してオフィスやイベントに奥さんを連れてきたことがありませでした。そのいまだ一度もお会いしたことのない奥さんから、その夜、すごく心のこもったお礼のメッセージが届き、再び私は涙しました。

こういう不器用で誠実でまじめで、自分の家族を心から愛する普通の人たちの、上げられない声を聞き、報われない思いを果たすために、まだ私にも何かこの地でできることがあるのではないかと思いました。
ブルーノ君、ありがとう。がんばろうね。

ブルーノのこと_b0128901_14461725.jpg


      ↑植林するブルーノと私。古い写真ですいません

by cordillera-green | 2009-11-03 14:46 | 緊急支援


<< パスドン村の台風前と台風後       台風ペペン被害の最新データ >>