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アナク・デ・カビリガンの辿ってきた道。マカティでの公演!

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 コーディリエラ・グリーン・ネットワーク(CGN)の活動は多岐にわたっていますが、今や看板事業といえるのが、演劇をツールとした環境教育です。環境教育の手法は、ファシリテイターが参加者や目的やその場の雰囲気などによっていろいろな手法を編み出していくもので、ゲームや歌やネイチャーアートなどを使った手法を、世界中の環境教育に携わる人たちが実践しています。でも、演劇を手法に取り入れている人は意外に少ないらしく、インターネットで「演劇」「環境教育」などで検索してフィリピンの田舎町で地味に活動しているCGNを訪ねてくれるという人もこのところ増えています。

 

 演劇ワークショップを環境教育に取り入れようという試みは、CGNが設立された2001年以降間もなく始まっています。設立メンバーの一人が舞台演出家で、当時バギオやその周辺で、おそるおそる始めた環境教育プログラム(当時は「アース・エデュケーション」なんて呼んでいましたっけ)でネタ切れして困ったときに、その舞台演出家に頼んで演劇ワークショップをやったのが最初だったと思います。たった3日間くらいで、全く演劇の経験のない若者たちがみるみる変わって堂々と演技しているのを見て驚いた記憶があります。単発でいくつかの村の環境教育プログラムの中で演劇ワークショップを行い、どこでもたいへん好評で、また、できた作品を村の人や学校の人に見せることで、ワークショップに参加した人以外にも波及効果があって、少しずつCGNのおすすめ環境教育プログラムとして実施数を増やしていきました。でも、始めた当初は日本のパートナー団体の人からなどは、”「演劇」と「環境教育」は結びつかないなあ……”などと理解を得にくい面もありました。


 コーディリエラ山岳地方の先住民族コミュニティでは、今でも伝統の唄や踊りを伝えているところが多くあります。職業として民族楽器演奏者などプロの音楽家がいるわけではなく、コーディリエラ地方の音楽はコミュニティの人たち誰もが輪になって参加するものです。また、チャンティング(朗誦というのかしら?)と呼ばれる唄も、シチュエーションによって(たとえば祝いの席とか)基本の旋律は決まっているものの、歌詞はそれぞれ即興でつけていくことが多くあります。先住民の人たちは民族ごとに異なるそれぞれの音楽や踊りを誇りとしていて、コミュニティでの冠婚葬祭などの儀式で、若い人たちも自然に村に伝わる唄や踊りを身につけていきます。

 そんな先住民族の村で若者向けに行う演劇ワークショップですから、あっというまに参加者たちはすばらしいアクターに変貌します。歌や踊りに合わせて体を動かすのは得意中の得意、子供の時に大人たちから聞いた民話や伝説を思い出して即興で身体や言葉で表現するのも、とても楽しそうにやすやすとこなしていきます。なんにもない(ときには電気さえない)先住民族の村で、環境教育の手法を模索する中で「身体一つでできるから!」とはじめてみた演劇ワークショップでしたが、先住民の人たちのタレントを活かし、コミュニティで埋もれつつあった物語(民話)を発掘し、そしてなんでも共有する先住民族コミュニティの中で“密室”教育でなくて、成果をだれにでもシェアできるというぴったりの手法だったわけです。


 CGNでは2007年から本格的に演劇ワークショップをメインとした環境教育事業を立ち上げています。演劇はバギオでは、ごく一部の大学で盛んなだけで、一般にはほとんどなじみのない芸術活動です。バギオには多目的のコンベンションセンターがあるだけで、劇場もありません。当時、市民劇団はひとつもなく(今は一つあります)、指導できる人も知りませんでした。2007年に本格的に立ち上げた演劇を使った環境教育プログラムのために、演劇の経験のある人がいると聞けば会いに行って、「先住民族のコミュニティでワークショップをやってくれないか」とお願いしてきました。コーディリエラ地方の6つある州それぞれで一つずつパイロット・コミュニティを選び、指導者を派遣し、環境問題をテーマとした演劇ワークショップを開催してもらいました。そして、その成果を鑑賞しあい、共有しあい、また、新たな環境問題に対する知識を得る場として「コーディリエラ・ユース・エコ・サミット」という環境イベントを企画しました。

 

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第一回の「コーディリエラ・ユース・エコサミット」が開催されたのは2007年の12月、バギオ・コンベンション・センターにおいてです。コミュニティでワークショップをしてくれた指導者たちがPETA(フィリピン教育演劇協会)でトレーニングを受けた人が多かったせいか、「なんだかいつも同じようなステレオタイプの作品が多いな」と思っていたこともあり、いろいろな演劇のあり方を紹介し、教育や社会問題解決の手段として演劇の活用を考えられないかと、日本から「プレイバックシアター羅針盤」と音楽ユニットKURIをゲストとして招待しました。また、キープ協会の桶本隆男氏による「開発と環境問題」、湊秋作氏による「環境教育」についての講演も行いました。


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2回は20091月、イフガオ州マヨヤオとカリンガ州ルブアガンで開催しました。環境と音楽をテーマして活動していた愛知県のNGO「環音」と連携し、山本公成氏(ミュージシャン)、OTOさん(ミュージシャン)、正木ラビさん(環境活動家)、直井保彦さん(写真家)&恵さん、小向定君(ミュージシャン)、JUN AMANTOさん(ダンサー)、そして環音代表の広田奈津子さんとたくさんの素敵なゲストの方たちが参加してくれて、演劇にとどまらず、環境とアートをテーマとしたイベントとなりました。

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 2009年度は元燐光群の演出家・吉田智久氏、バギオ出身の舞台女優のレイ・バキリンさんもファシリテイター陣に加わって6州で巡回環境演劇ワークショップ「エコ・キャラバン」を実施しました。まとめとしての第3回のユース・エコサミットを、20101月、ベンゲット州マンカヤンのレパント鉱山とアブラ州バンゲッドのディバイン・カレッジで開催。日本からは再び大阪からダンサーのJUN AMANTOさん、イスラエル在のコンテンポラリー・ダンサーの河原田隆徳さん&ゾーハさん、音楽を使った子供の教育のNGO「コンソメWパンチ」が参加してくれました。

 2010年の夏休みにはレパント鉱山で、それまで各地で開催ワークショップに参加したいろいろな民族の若者たちを集めた10日間のワークショップ・キャンプを開催。メイベル・バトン氏、マジョリー・アミストソ氏、エドガー・バナサン氏、若手演出家アンジェロ・アウレリオ氏、JUN AMANTO氏、吉田智久氏と、CGNが誇る強力なるファシリテイター・チームで、プログラムを実施しました。そのワークショップの成果の発表は、レパント鉱山とマウンテン州タジャン・ルボン村にて行われました。また追加公演で、201012月にイフガオ州フンドゥアン町ハパオ村の世界遺産の棚田で行った「平和と環境のためのアート・プロジェクト」でも発表を行いました。



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 そして、その10日間サマー環境演劇ワークショップ・キャンプに参加したメンバーからの16人を伴って、2011年に5月には震災後まもない日本ツアーを実施。山梨県で環境教育ワークショップやエコアートフェスへ参加、愛知県の劇場での公演、愛知県立大学、東海高校訪問などを通して、日本の若者との交流を図りました。

  また、2013年からは、フィリピンの学校の唯一の長い休暇である夏休み(46月)を利用した、さまざまな民族の若者が集う合宿性のワークショップも再開。海外での経験も豊富な演劇教育のファシリテイター、花崎攝さんにも指導チームに加わっていただき、演劇を環境教育に生かすための新しい手法を学んでいます。


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 最初の「コーディリエラ・ユース・エコサミット」の演劇発表部門のタイトルとして掲げたのが「アナク・デ・カビリガンAanak di Kabiligan」。先住民族の一つカンカナイ族の言葉で「山の子供たち」を意味します。いろいろな民族の若者たち、子供たちが集うからということで単純につけた名前でしたが、その後は、CGNがコミュニティで行った環境演劇ワークショップに参加した若者たちのことを呼ぶようになり、2011年の日本ツアーの時のいろいろな民族のユースによるグループの名前も「アナク・デ・カビリガン」としました。メンバーが固定されているわけでなく、その都度、参加者は違うのですが、「CGNのコミュニティシアターワークショップに参加した先住民の若者」という条件でゆるくつながっているグループです。

 ワークショップ参加時はコミュニティのハイスクール(中学)に通っていた「アナク・デ・カビリガン」のメンバーたちですが、最初に演劇ワークショップを始めてから10年近くがたっており、「アナク(子供)」から青少年に、そして、次世代を育てる大人に成長しつつあります。


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 ベンゲット州カバヤンで行った初期の演劇ワークショップに11歳で参加したナタリンはまもなく20歳。(写真前から二人目)いまは、バギオの大学でマスコミを専攻する個性的な大学生に成長し、将来はメディアを使って人々に様々なメッセージを伝える仕事をしたいと夢見ています。最初に参加したワークショップですっかり演劇のとりこになってしまったナタリンは、CGNが主催してきたその後の「アナク・デ・カビリガン」の演劇ワークショップに皆勤賞。今回のマカティでの公演では見事におばあさん役をこなすまでになりました。


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 2009年度のレパント鉱山でのワークショップに参加したロジャーは、早くも今年大学を卒業。在学中も時間を見つけてCGNの演劇を活用したワークショップでアシスタントなどを数多く勤めてくれました。大学を首席で卒業しただけでなく、コミュニティでの社会貢献が評価され、コーディリエラ地方の最優秀学生10人の一人に選ばれました。表彰式に唯一人、ふんどし姿で参列している様子はローカルニュース番組でも盛んに報道されていました。



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 2009年度、山奥深いカリンガ州バルバラン村で吉田智久氏のファシリテイとした演劇ワークショップに参加したカートは、カガヤン州ツゲガラオの大学で日本語を専攻し、日本語の先生になることを目指しています。在籍する大学には日本人の先生が二人もいるそうで、久々に会ったら流暢な日本語であいさつされて驚きました。12時間もかかる本当に遠い田舎から、アナク・デ・カビリガンのワークショップに何度も参加してくれているうちに、すばらしい集中力でアクターとしてどんどん成長。マカティの公演ではセリフは全部吠え声という主役の犬を存在感たっぷりに演じました。


 そのほか、コミュニティでのワークショップに何度も参加し演劇が大好きになった「アナク・デ・カビリガン」のメンバーの多くは、今、大学で教育学を専攻し、将来、それぞれのコミュニティで先生になることを目指しています。家が貧しく大学に通えそうもない6人のアナク・デ・カビリガンの学生には、彼らの活動に何らかの形で触れる機会のあった日本の人たちにお願いし、CGNの「コーディリエラ・グリーン奨学金プログラム」を通じて里親になってもらっています。


 10年近くも継続してきたCGNの演劇ワークショップですが、今までマニラで発表する機会がありませんでした。今回、日本の舞踏グループ「ケイ・タケイ・ムービングアース・オリエント・スフィア」と劇団「黒テント」による「西遊記のアジア」公演にお邪魔する形で、マカティに新しくオープンする(仮オープン中)TIUシアターで公演の機会をいただいたのは降ってわいたようなお話でした。


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 4月の終わりの花崎攝さんとアンジェロ・アウレリオ氏を講師とし、マウンテン州サバンガンで行った「アナク・デ・カビリガン」のワークショップ(りそなアジアオセアニア財団助成)に参加した若者たちが、TIUシアターのステージに立ちました。マカティでの公演を前提のワークショップでなかったため、作品制作に費やした時間はワークショップ最終日の3時間ほど。マカティで発表を行えることが確定し、バギオに再集合して1日半、そしてマニラに到着してから1日。たったそれだけの練習でしたが、メンバーたちは実に堂々とステージの上で輝いていました。いつの間にやらすっかり大人になってしまったステージ上の彼らを見て、以前のように「失敗しないかしら??」と、ひやひやドキドキ、胃が痛くなるような思いをすることもなく、落ち着いて信頼たっぷりに彼らの演技を見ることができました。


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 10年目を迎えるアナク・デ・カビリガン。メンバーたちがこれから次々と社会に出ていくことを想定して、よきコミュニティ・リーダーとして成長してくれるようにと、ワークショップでもファシリテイター養成の要素を少しずつ加え始めています。グルーバル化の波の中で、そして発展めざましいアジア経済の中で、豊富な自然資源を擁するコーディリエラ山岳地方の先住民族コミュニティに資源開発の誘惑の手が伸び始めています。お金による「豊かさ」と引き換えに、彼らが古来、受け継いできた自然資源、伝統文化、人と人とのつながりという「真の豊かさ」を失うことのないよう、コミュニティの人々が昔から続けてきたように、集い、情報を交換し、話し合い、納得して判断を下していくために、アナク・デ・カビリガンのメンバーたちのさまざまな経験が大きな力になってくれることと信じています。

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by cordillera-green | 2014-06-14 15:59 | 環境イベント