2016年 10月 15日
東ティモール研修の目的は以下。 * フィリピンのコーヒー農家とNGOスタッフが、日本のNGO団体などのサポートにより品質の高いコーヒーを生産し、輸出を拡大している東ティモールのコーヒー栽培地、加工、乾燥、集荷の現場を訪問し、品質向上のための適正技術を学び、東ティモールのコーヒー農家との意見交換を行う。フィリピンからの参加者は、その経験を帰比後、それぞれのコミュニティや活動の場で共有し、実践し、生産するコーヒー豆の品質向上に役立てていく。 * 一般的にフィリピンのようなアジアの新興国の人々が研修に行くときの行き先は、先進国となる。今回は、アジアで最も新しい国であり、最貧国のひとつである東ティモールが訪問先だった。2016年市場でも街中の商店でも、商品の数は少なく、人々の暮らしが北ルソンの農家以上にシンプルで貧しいものであることは参加者みな感じたと思う。
今回、同行したルソン島北部コーディリエラ地方のコーヒーの農家と比較すると、もっとも違うのは、東ティモールの農家がコーヒーの単一栽培であるのに対し、コーディリエラ地方のコーヒー農家は野菜や米の栽培と兼業している点である。参加者はコーヒー農園の広さに驚き、収獲期の重労働を想像したが、コーヒーしか生計手段がないだけに選択伎はない。コーヒーの品質と収穫量が、そのまま農家の年収に響くわけだから、農家のコーヒー栽培にかける意気込みは中途半端なものではない。地域に生えてる木を切った木材とドラム缶の廃材を使った手作りの果肉除去機(パルパー)の処理能力の高さに一同感心したが、外部からの支援がとどかない小さなコミュニティで、なんとかコーヒー加工の労働を効率的にしようと、身近に手に入るもので工夫して長い年月を改良を重ねて作り上げてきたものなのだろう。 このパルパーはコーディリエラ地方の貧しい農家でも、多少複雑ではあるが、資本なしでも自ら作ることができるものだった。問題はメンタリティ。野菜や米の栽培で多少の収入が得られ、またそのための農作業でかなりの時間を割かれるコーディリエラの農家には、農閑期はないと言ってよく、時間と手間をかけて副産物であるパルパーを手作りするより、野菜をもっとたくさん栽培してその収益で買ったほうがラクと思う向きもあるだろう。 台風被害に常に悩まされているコーディリエラ地方の農家にとっては、東ティモールには台風が来ないという話は羨望のまなざしで受け止められていた。また、訪問したコーヒー農園にまったく病害虫の被害が出ていないことも驚きとともに受け止められた。ある意味、気象条件、そして地理的条件も、訪問した東ティモールの山岳地より厳しいコーディリエラの農家は、無意識のうちに自然災害による打撃を避けるために、複合的な農業を選択していると言えるだろう。コーヒー農園のみが果てしなく続くエリアを移動しながら、 「もっと野菜栽培をしたらいいのに」 と参加者同士は会話を重ねていた。 「病害虫でコーヒーが被害を受けたり、今まで来なかった台風が異常気象でやってきたらどうするのだろう?」 「主食の米さえだれも作っていないのだから、飢えるではないか」 ↑小さな野菜農園を始めた人もいる 海外からの援助によって輸出産物として成長したコーヒー豆の品質は、コーディリエラ地方の豆とは比較にならないくらい均一で素晴らしいものだった。生産量もケタが違う。今回訪れた地域で目にしたコーヒーの生産過程から学ぶことは実に多かった。 一方で、あまりに大きな海外中心の資本がまとめて集荷し、どこかわからないところで取引されている状況に、農民があまり関心がないことも気にはなった。コーヒーが食卓に上がるまでの「種」から「カップ」までの、ごく一部のみを担っているコーヒー農家。言われた通りの品質の豆を生産するために精魂込めてつらい作業もこなしているのだろうが、その先の販売は、海外NGOだのみだったり、大資本により大量買い付けだったり。山の中のコミュニティからはまったく目が届かない。 **************** 研修概要: 東ティモールの独立(2002年)前から交流し、独立後もコーヒー栽培による経済の再生をサポートしている平和環境もやいネットが、東ティモールでコーヒー栽培・加工指導と販売サポートを展開する日本のNGO「ピース・ウィンズ・ジャパン(PWJ)」の協力を得て、フィリピンからの5人の参加者(コーヒー栽培農家代表とNGOスタッフ)を対象とした6日間の研修を行った。 研修では、PWJの事業地であるエルメラ県レテフォホの4つのコーヒー栽培コミュニティを訪問し、栽培、収獲、加工、加工機器づくり、乾燥、集荷、販売の現場を見学し、フィリピンのコーヒー栽培地で実践できる技術と知識を学んだ。 また、やはりコーヒー事業を行っている日本のNGO「パルシック」のドライミルの見学も行なった。さらに日本のNGO「APLA」などと協力して有機野菜ガーデンの学校への普及や水保全システム事業を行っている東ティモールのNGO「Permatil」代表とも意見交換を行った。 ↑パルシックのコーヒー豆選別工場 旅程:
研修内容詳細: <果肉除去機作り> レヌマタ・コミュニティにおいて、約2日間コーヒーの果肉除去機 の作成方法の講習をおこなった。講師は同コミュニティのペドロ氏。果肉除去 において、重要なディスク部分の作成を学び、機械の構造を一つ一つ丁寧にレクチャーしてもらった。部品器具等は、すべてフィリピンにおいても手に入る もので、フィリピンでの製造は可能である。 <集荷> コーヒーの買い付け場面での、集荷方法を学びに ラカウ・コミュニティを訪問した。PWJ においては、パーチメントの段階で買い付けが行われる。収穫から精 選を経て、パーチメントまで仕上げる方法をあらかじめ農家に講習会を行い、品質の均一化を図っている。フィリピンにおいては、生豆の状態まで仕上げる。 集荷は各コミュニティをトラックで訪問し、その場で計量を行う。計量した数 値を記した紙を農家に手渡し、後日事務所にて支払う方法をとっている。フィリピン農家も集荷方法を考え出すとのこと。 <収穫> エラトイ・コミュニティにて収穫を体験した。一面のコーヒーの木に一同目を奪われて、コーヒー栽培が主に行われている地域の環境を肌で感じることができた。 同地域では、コミュニティ一丸となって、協力し合いながら収穫と精選を行う。 <乾燥> レテフォホ地域においては、コーヒーの乾燥は、ブルーシートもしくは、アフリカンベットと呼ばれる高床式の乾燥台を使用する。フィリピンにおける乾燥 問題に、直接的に解決できる方法であるとみな感じた。 <ドライミル工場見学 > パーチメントを脱觳し、生豆の状態にまで仕上げる工場(ドライミル)を見学した。1 日に約5トンのパーチメントを加工できる施設で、すべて全自動でおこ なえるもの。フィリピン農家が暮らす地域にはまだ存在せず、今後生産量が拡 大してきたときに重要となる施設である。 <まとめ> それぞれのコミュニティにおいて、各農家と交流した中で、共通していたことは、高く販売するには品質の高いコーヒーを産出しなければならないというこ と。そして、その品質を作り出すための方法を農家は知っているということで ある。このマーケットの求める品質に、農家たちが正確に理解し、生産していくという考えかたにフィリピン農家一同が感心していた。また、果肉除去機等の技術の高さを目の当たりにしたことは、良い経験になったと思われる。 上記とともに、この地域のコーヒーの単一栽培における欠点・問題点がフィリピン農家の間で議論された。もっと土地を有効に使う方法がある。野菜をも っと植えた方が良い。堆肥をもっと使用した方が良い等々。フィリピン農家の 過去の経験から、アグロフォレストリーによる、主作物・副作物の栽培に行い、環境と農業ビジネスのバランスをとっていく必要があるだろうとの指摘があっ た。 東ティモール側においては、今まで供給される側だった農家たちが、フィリピンから自分たちのコーヒーを学びに来ているという事実を知り、彼ら自ら率 先して、フィリピン農家に対して、快活に指導していること自体が成果であっ たと感じる。 今後もこのような活動は続けていくと良い。 (平和環境もやいネット 山本博文)
by cordillera-green
| 2016-10-15 13:23
| コーヒー
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