2020年 03月 30日
「世界の人びとのためのJICA基金」は、JICAホームページによると、「国際協力にご関心のある市民の皆様、法人・団体の皆様から寄附金による基金で、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、本基金を活用した開発途上国・地域の人びとを支援する活動に対して事業計画案を募集」するものです。2019年度の申請案件の中から、通常枠ではマナラボを含め7件の活動が採択されました。 JICAというとODAなどの海外での大規模なインフラ整備プロジェクトなどを連想すると思いますが、この基金はJICAの「市民との連携」事業のなかでも国際協力の経験のない個人や市民団体でも応募ができるものです。事業期間は1年間で上限100万円までと、JICAのさまざまな枠組みの中では小さいものですが、はじめて国際協力にチャレンジしようという人には、格好のプログラムと言えるかもしれません。
2020年度のJICA基金活用事業募集のチラシの「チャレンジ枠」の解説には、こうあります(すでに、2020年度の募集は締め切られています)。 ポイント①開発途上国・地域における貧困削減や人々の生活改善・向上に直接的に貢献 しうる活動であれば、分野の指定なく提案可能。 特に、社会課題解決のための新たなアイディア・アプローチを歓迎! ポイント②国際協力活動実績が2年未満の団体・個人が募集対象なので、国際協力活 動の経験がないor浅くても申請OK! ポイント③国際協力活動の経験がないor浅くても、 専門家から事業計画策定・実施・振り返りのタイミングで アドバイスをもらえる機会が必ずある! 国際協力活動をしたいけど、自前の資金では足りない。でも、助成金申請って難しそう、と尻込みをしている人が挑戦してみるのにはとてもいいと思います。助成金申請で最大の難関と思われる会計処理の仕方や報告書の作り方なども、フォーマットと手引きに従って順番にすすめていけば、経験がなくても自力で作成できる仕組みになっています(面倒ではありますが)。 今回のマナラボとのプロジェクトは、CGNがコーヒーのアグロフォレストリー栽培を指導している場所の一つ、カパンガン町サグボ村で実施しました。サグボ村はマナラボ代表の飯塚さんが事務局長を務めていた「NPO法人 環境平和もやいネット」が、2017年度に緑の募金公募事業でアグロフォレストリーによる植樹を行った場所です。CGNも2012-2014年度にサグボ村のビレン地区などで、3万本以上のコーヒーの苗木を植えました(イオン間環境基金助成)。 植樹したコーヒーノキがようやく本格的な収穫期を迎えているにもかかわらず、収穫後のコーヒーの実を精製する機器がないという窮状をマナラボに相談したところ、サグボ村をサポートしましょう! と、このプロジェクトを立ち上げてくれました。事業名は「小規模農家によるコーヒー生産のための加工・運営指導プロジェクト」。要は、小さな農家さんたちがグループで使える小さな精製所を提供して、おいしいコーヒーを作り、少しでも多くの収入をコーヒーから得られるようにお手伝いをしましょう!というものです。サポートするコーヒー栽培農家さんは、サグボ村のビレン集落周辺の農家が加盟しているダイヨコン農業組合の人たちとしました。
1. 小さな精製所づくりと精製機器の支給 小さなマニュアルの果肉除去機(パルパー)を3台支給しました。収穫後のコーヒーのチェリーをウオッシュド(水洗式)という方法で精製するために必要な機器です。これがないと、皮むきの作業を杵と臼でやらねばならなく、大変な重労働です。水を使う作業ですので、同時に水のタンクも支給しました。 コーヒーチェリーを水につけて浮いてくるものをのぞいたり、皮をむいたパーチメントを洗ったりするための容器(タライですね)、そのパーチメントに付着しているミューシレージとよばれるネタネタの粘質を取り除くために発酵させる蓋つきの容器(大きめの蓋つきポリバケツみたいなもの)も支給しました。 さらに、発酵したミューシレージを洗い流した後のパーチメントを乾燥させる乾燥箱(トレイ)と、乾燥台に使うプラスチック製のシートなどの資材も支給しました。 最後に、それぞれの農家さんたちが収穫したチェリーや精製したコーヒー豆を正確に測り記録をつけるための、計りとノートも寄付しました。計りとノートは、ダイヨコン農業組合のコーヒー豆を毎年継続して輸入してくれている京都のフェアトレード会社「シサム工房」さんからのフェアトレード・プレミアム(奨励金)で購入したものです。 2.精製技術トレーニング 機器支給と同時に、支給した機器を使って品質のよいコーヒーを作るためのトレーニングを開催しました。技術指導には、アジア各国のコーヒー新興国で農家目線できめ細かい栽培指導を行っている山本博文さんが、忙しい合間を縫って2度も足を運んでくれました。 3.組合の組織強化セミナー 支給された機器は、組合が共同で使用する必要があります。ダイヨコン農業組合は、コープストア(組合のショップ。日用品や食料品を販売しています)の経営が主な活動です。今回新たに加わるコーヒーの精製を組合として行うための組織強化プログラムを行いました。組織をどのように潤滑に運営していけばいいか、いま現在の組織のあり方には何が欠けているか、どうすれば組織がさらにサステナブルなものになるか、マーケットを広げるための国際フェアトレード認証申請のためには何が必要かなどについて講習会を開催しました。 講師には、フィリピンの政府機関である組合開発機構(CDA)の百戦錬磨の専門家さん、そして・フェアトレード・ネットワーク・アジア太平洋地区Network of Asia & Pacific Producers (NAPP)の東南アジアの生産者認証担当で各国を飛び回っているエリカ・シアソン女史が来てくれました。 2019年度事業というものの、JICAとマナラボの間で契約書を交わすまでに思った以上に時間がかかり、実質的には事業は収穫期直前の10月下旬にスタートとなりました。そして2020年2月末にはできるだけすべてのプログラムを終了してほしいとのことで、正味3カ月という短期決戦事業。事業調整を行うコーディネイターとしてCGN新人スタッフのバージニアを配置しましたが、ほんとうに期間中に終了できるかひやひやの3カ月でした。 以下は、プロジェクト後半戦の内容の一部(前半のプログラム詳細についてはこちら)を紹介します。 2019年11月の収穫開始時の山本さんによる精製技術トレーニングで、ダイヨコン農業組合のコーヒー農家さんたちは栽培地の分布の仕方によって4つのグループに分かれることが決まりました。 1.組合のコープストアがある地区(農家11人) 2.ロウワー・ビレン地区(農家10名) 3.アッパー・ビレン地区(農家8名) 4.ランディン地区(農家13名) それぞれのグループ別にリーダーを決め、毎日のように農家のメインの生産物であるサヨテ(はやとうり)収穫に忙しい中、グループごとに週に1回のコーヒー収穫日を決め、その日に精製作業を共同ですることを話し合いました。 やはり4グループともサヨテの集荷がない週末から月曜にコーヒーを収穫して作業をする曜日と決めていました。プロジェクトの調整スタッフは毎週末のように事業地に赴き、トレーニングで教わった手順に従って精製がされているかをモニタリングしました。 でも、結果から言うと、栽培農家それぞれが収穫したものをチェリーの状態でほかの農家の豆を混ぜて一緒に精製するのには抵抗があったようです。やはり自分の豆は自分の豆として最後まで別にしておきたいという気持ちが強かったよう。まだ生産量が少ない農家も多く、共同作業の必要性を一部の生産量の多い農家さん以外は実感していないのかもしれません。また、チェリーの状態で集めたときに計った記録が、最後に精製・乾燥させたあとまで、そのままのパーセンテージになるのだよ、という算数がピンとこなかったかな。生産量が多い人と少ない人がいるのに同じように作業をするのが、割が合わないと感じた人もいたかもしれません。あるいは、自分の農園のコーヒーを味わいたい!という気持ちが強かったということも考えられます。今後の事業計画の立て方の参考となりました。 * 2020年2月に再び山本博文さんに来比をお願いし、農家さんたちが精製と乾燥を終えた17種類のコーヒーを、カッピングというちょっと本格的な世界共通の評価方法で、農家さんたちと一緒にチェックしました。 いつもいつも、とても褒め上手の山本氏ですが、心から「おいしい!」を連発。 農家のおばちゃんたちの中には、「砂糖を入れないコーヒーなんて苦くって飲めたもんじゃないわ」と、テイスティングに挑戦するものの、「苦い!」と顔を思いっきりしかめて笑いを誘っている人も多くいました。しかし、コーヒーの輸出先の国々では、こんな風にコーヒーの香味の評価がされるのだということを、栽培農家さんに知っていてもらうのはいいことだと思います。 普段、農家さんたちがおいしく飲んでいるコーヒーは、焦げているんじゃない?というくらい深く鍋で焙煎し、たっぷりと砂糖を入れてヤカンで煮だしたもの。それがこの地域でのコーヒーの飲み方です。農作業で疲れたときには甘いコーヒーがいちばんなのです。 「先進国と呼ばれる国々の大都会のおしゃれなカフェで、ちょっともったいぶって、目の飛び出すような値段をつけられ、ありがたがって飲まれているコーヒーは、お砂糖入れずに浅めに焼いて煮だしていないコーヒーなんですよ~~」「そういう飲み方に適したコーヒーのほうが、高く売れるものなんですよ」と伝えることが、この農家さんたちへのカッピング・ワークショップの目的のひとつです。農家の皆さんに「浅い焙煎のお砂糖抜きのコーヒーをおいしいでしょう!」と押し付けるつもりはカケラもありません。 山本さんは、17種類を1杯ずつテイストし、一つずつについて栽培農家さんに、 「このコーヒーは柑橘系のきれいな酸味がありますねえ」 「こちらはナッツみたいですねエ」 「あれ、これはなんか草っぽいかな?」 と感想を伝え、もっとおいしい(買ってくれる国の人たちがね)コーヒーにするには、精製過程でどんなことに気をつけたらいいかをアドバイスしてくれました。
別の日には、ベンゲット州のそのほかの生産地の栽培農家の人も招待し、その農家さんたちのコーヒー豆も交えてのカッピングをしました。ダイヨコン農業組合の代表の人たちは、ほかの生産者のコーヒー豆との香味の違い、精製方法の違いなどを、農家さん同士の交流を通して学びました。 こうして丁寧に作られた今年コーヒー豆ですが、事業のプログラムがなんとか滑り込みセーフで終わったのち、3月に入ってからCOVID-19(新型コロナウィルス)の感染拡大で、CGNの拠点のあるバギオ市もサグボ村もすべての動きが止まっており(町も村もほぼ封鎖状態です)、ダイヨコン農業組合の倉庫で出荷を待っている状態です。 一刻も早く感染拡大が止まり、皆さんのお手もとにコーヒーが届きますように。
by cordillera-green
| 2020-03-30 17:52
| コーヒー
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フィリピンの環境NGO「コーディリエラ・グリーン・ネットワーク」の活動を紹介するブログです。。cordigreen@gmail.com by cordillera-green カレンダー
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