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2020年 06月 27日
2019年度「ベンゲット州キブンガン郡における森林農法(アグロフォレストリー)によるコーヒー栽培を通じた野生生物保護事業」(イオン環境財団助成)は、無事終了しました。新型コロナウィルス流行の影響は、遠くこんな山の奥まで及び、事業地のキブンガン郡も3月半ばにロックダウン(封鎖)され、必要な農産物や食料の運搬以外は外部との行き来はできなくなりました。いまだ(2020年6月末)移動制限は継続していますが、村の暮らしはそれほど変わっていないようです。しかし、事業担当の森林専門官(フォレスター)も事業地に行くことが難しいため、昨年の雨季に植樹した苗木の生育状況の調査を、サグパット農業協同組合の人に依頼しました。 以下、この事業についての報告です。
事業地のキブンガン郡のサグパット村は、CGNが一番最初にアグロフォレストリーによるコーヒー栽培を行った場所です。2005-2007年のCGNとしての初めての植林事業の事業地がキブンガン郡で、その最後のほうで実験的にサグパット村の松林のなかにアラビカコーヒーの苗木を植えました。そのころベンゲット州の州都ラ・トリニダード町にあるベンゲット州国立大学Benguet State University(BSU)のInstitute of Highland Farming Systems and Agroforestry (IHFSA)では、ベンゲット州の山岳地方に多く見られるベンゲット松と一緒に育つ換金作物について調査をしており、アラビカコーヒーが松の木とともに育つということで注目を集め始めたところでした。 実はサグパット村はそのIHFSAのディレクターであるマカネス教授のふるさと。大学のモデル農場でやってきたコーヒー栽培を実際にコミュニティで実践したいということで、CGNはサグパット村の農家の組織(今は改名してサグパット農民組合=Sagpat Agriculture Farmers Cooperative(SFAC))をパートナーとして、アラビカコーヒーのアグロフォレストリーによる栽培を始めたのです。 (マカネス教授は昨年、コーヒー栽培の調査とコミュニティでの指導の功績が認められ、Benguet Achievement Awardees 2019を受賞しました。記事(英語)はこちら➡http://www.bsu.edu.ph/article/macanes-benguet-achievement-awardee あれから15年。CGNは山岳地方のさまざまなコミュニティでコーヒーのアグロフォレストリーによる栽培指導と苗木の配布を行ってきました。そしてコーヒーの収穫が始まったコミュニティでは、ポストハーベストの精製の技術指導や機材の配布、フェアトレードによるマーケティング・サポートを行ってきました。 サグパット村でも収穫が始まるのに合わせて、収穫後のチェリーの精製方法についての講習会、皮むき器の支給、パートナー団体SFACの代表アーノルドさんの東ティモールのコーヒー生産研修参加、フェアトレード認証取得のための組織化講習会などを実施してきました。その一方で、キブンガン郡の農家のおもな生産品であるサヨテ(はやとうり)の栽培はどんどんと拡大し、サヨテによる収益は住民たちの暮らしの基幹としての地位を不動のものにしてきました(「グリーンゴールド」と呼ばれています)。それに伴い、キブンガン郡での森林破壊は拡大し、土砂崩落など台風や大雨時の災害も増えています。近年、利益だけを求めてサヨテ栽培を拡大してきた農家の人たちにも、ちょっとした迷いが出てきたと見受けられました。 この事業はそのサグパット村での15年ぶりの植樹を含んだ事業です。ここ数年のフィリピン国内でのコーヒーブームで、国産コーヒーの値段が上がり、この15年間に地道にコーヒーを育ててきた人たちには、コーヒーは着実に収入に結び付いています。コーヒー栽培に疑心暗鬼だった人たちの中にも、コーヒー栽培に本腰を入れてみようという人も出てきました。 CGNとしては、このプロジェクトの目的は、過去に植えたアグロフォレストリーによるコーヒー栽培地の調査を行い、生態系保全の大切さを改めてコミュニティに伝え、さらにアグロフォレストリーによるアラビカ・コーヒーの栽培地を拡大しようというものでした。 <活動内容> 事業期間:2019年4月ー2020年3月 イオン環境財団第28回イオン環境活動助成事業 以下の活動を実施しました。 ●森林農法によるコーヒー栽培地の植物に関する調査 事業担当の森林官の指導で、ベンゲット州国立大学森林学部の学生とともに調査を実施しました。グループに分かれ、対象の農園で10-20mのエリアを2-3か所選び、そこに生えている植物を記録しました。 実施日時:2019年6月24-29日 実施場所: コーヒーを森林農法によって栽培している12の農園(サグパッド村9、隣接するポブラシオン村3)のうち11の農園 参加者:ベンゲット州国立大学森林学部の大学生15名、当事業専門家の森林官、申請団体スタッフ ※調査結果の詳細はこちら(英語)➡ ![]() ●森林農法による植樹活動 SFACメンバー23名に計9465本の苗木が配布され、それぞれの個人の土地に植樹しました。苗木の内訳はアラビカ・コーヒー5,695本、トゥアイ2,370本、アルヌス1,400本 実施日時:2019年6月~9月 植樹場所:23名の住民の所有地 参加者:23名の受益者とその家族、当事業専門家の森林官、CGNスタッフ ![]() ●コミュニティ共有林、水源地、2つの小学校敷地、コミュニティの新たな森林農法モデル農園への植樹活動 以下の日程で雨季の間に共有地への植樹を行いました。 植樹した苗木本数は3,295本。内訳はコーヒー1,415本、トゥアイ1,630本、マラ・ティビッグ150本、アルヌスの600本。台風の襲来、モンスーンによる長期の雨などで、植樹作業は9月まで継続されました。 ①実施日程:2019年6月25日(フィリピンの植林の日) 植樹場所:サグパット共有林&水源地 参加者:サグパット村役員、サグパッドの村人ち、小学校の生徒たち、ベンゲット国立大学学生ボランティア15名、SFACメンバー、森林官、申請団体スタッフとボランティア 樹種と本数: コーヒー250本、トゥアイ500本 ![]() 実施場所:ボケス小学校敷地内 参加者:ボケス小学校5年生&6年生生徒と教員、森林官、申請団体スタッフとボランティア 樹種と本数:コーヒー15本、トゥアイ350本 ![]() ③実施日程:2019年7月27日 実施場所:サグパット小学校敷地内 参加者:サグパット小学校5年生&6年生生徒と教員、バギオ市内の英語学校で学ぶ日本人学生ボランティア、森林官、申請団体スタッフとボランティア 樹種と本数:トゥアイ300本、コーヒー200本 ④実施日程:2019年8-9月 実施場所:サグパット共有林&水源地 参加者:SFACメンバーの中で参加可能なもの、森林官、申請団体スタッフと公募によるボランティア(植林ツアー) 樹種と本数:コーヒー250本、トゥアイ480本、マラ・ティビッグ50本 ![]() 実施場所:森林農法の新たなモデル農園(ラボヤン農園) 参加者:SFACメンバーの中で参加可能なもの、森林官、申請団体スタッフとボランティア 樹種と本数:コーヒー700本、マラ・ティビッグ100本、アルヌス100本 合計植樹本数は13,260本。内訳はコーヒー7,110本、トゥアイ4,000本、ティビッグ150本、アルヌス2,000本 ![]() ●アグロフォレストリー(森林農法)によるコーヒー栽培地における野鳥に関する講習会と調査 講習会:2019年12月12日 会場:KALAHI Multi-purposeBuilding 調査:2019年12月11日―14日 調査地:サグパット村の森林農法によるコーヒー栽培地 講習会参加者: SagpatFarmers Agriculture Cooperative(サグパット農家農業組合=SFAC) メンバー 14名 講師 & リサーチャー: 神山和夫(日本バードリサーチ)、JennicaMasigan(Center for Conservation Innovation Philippines Inc.) 講習会内容:二人の講師は以下のテーマについてプレゼンテーションを行いました。 1.自然界と集落における野鳥の役割 2.フィリピンと日本を行き来する渡り鳥 3.北ルソンで見られる野鳥 4.コミュニティ・フォレストにおける野鳥の価値 5.一般住民による野鳥観察の方法 講習ののち、参加者とともに森林農法によるコーヒー栽培地で野鳥観察の実習ワークショップ開催しました。 調査内容:サグパット村内の条件の異なる4つの森林農法によるコーヒー栽培地の生態系と野鳥について調査しました。 ※ワークショップの詳細はこちら(日本語)➡ ![]() ![]() ●苗木場の設置 2020年1月に苗場のための資材がサグパット村に運搬され、苗場の造成作業がSFACのメンバーによって開始されました。苗木用ビニールポットへの土入れ、苗床への種まきなどの作業が行われました。ティビッグの種子の入手が難しくトゥアイの種を入手して苗床で種まきしたが、発芽が見られなかったため、ファルカタ(フィリピンではMoluccan sau)の種を再購入しました。2020年5月現在、苗場では5,000本のアラビカ・コーヒーの苗木と5,000本のファルカタの計10,000本を育苗中です。 ![]() ●森林農法によるコーヒー栽培の環境へのインパクトに関する講習会と森林農法によるコーヒー栽培地の生態系調査 講習会:2020年2月12日 調査:2020年2月7-15日 講師:甲野毅(大妻女子大学助教授)、リリー・ハミアス(フォレスター) 参加者:SFACメンバー15名 講習内容:2019年12月に行われた講習会で学んだ観察方法によって、森林農法によるコーヒー栽培地で、どんな生物(哺乳類、野鳥、虫、両生類など)が観察されたかを参加者が発表しました。甲野氏は絶滅した日本オオカミなどを例にあげ、生態系のバランスを保つことの大切さ、あらゆる生き物が地球上で役割があることなどをわかりやすく説明しました。 調査内容:全13の森林農法によるコーヒー栽培地を訪問し、土壌調査、生態系調査を行いました。今後の理想的な森林農法のあり方を示唆するための基礎資料として利用することとなりました。 ![]() ![]() ●植樹地の苗木の生育状態のモニタリング 事業で植樹した苗木の生育状況は事業を担当する森林専門官によって毎月モニタリングを行ってきました。10月10日、11月7日、12月6日に植樹地を訪問し。1月31日に植樹後半年目の生育状況の調査で12か所の植樹地を訪問しました。2020年3月が本事業最後のモニタリング調査となる予定でしたが、新型コロナウィルス感染問題で事業地も封鎖となり延期されました。2020年6月に入っても事業地のある自治体へは厳しい入場制限があり、生育状況の調査を事業地のパートナー団体であるSFACに依頼しました。報告によると、アラビカ・コーヒーの生育率は85%。日陰樹として植樹したマラティビッグは順調に生育していますが、トゥアイとアルヌスの苗木の生育は、マラティビッグに比べると低いとのこと。根付いた苗木はすでに、新しい芽と葉が出ています。 コーヒーの生育状態は、土壌の肥沃さと日陰の状況に大きく影響されていることが見て取れたそうです。育たなかった苗木の一部は、苗場から移植地への運搬中に受けたダメージによるものと予想されています。 ![]() ![]() プロジェクト担当の森林官(フォレスター)マイラ・セセットからの感想とコメント このプロジェクトは大きく、森林再生のための植林活動と、コーヒーをベースとしたアグロフォレストリー農園における生物多様性を維持するための野生生物の観察と調査、という2つの要素によって構成されていました。 コミュニティやSFACのメンバーは、森林再生から得られる利益が大きいことから森林再生活動には関心を示し積極的に活動に参加しました。森林再生によるメリットを理解しているからと言えるでしょう。今回新たに加わった 新メンバーや SFAC の従来のメンバーの中には、将来的にコーヒーから副収入を得られることを期待して日陰樹やコーヒーを植えることに積極的だった人が多かったです。 サグパット村の人たちは、コーヒーをベースにしたアグロフォレストリー農園の管理にすでに精通していると言えるでしょう。ただその知識を実行に移すかどうかにかかっていると言えます。コーヒーの植樹にとって考慮すべきは、日陰樹の存在と土壌の肥沃度と植樹予定の土壌に適した苗木の選択です。 輸送時のダメージを少なくし、移植後の苗木の活着率を上げるには、地域内にある植樹予定地と似た環境で育成されている苗木を調達しなくてはなりません。 また、植樹に参加する人それぞれが何を目的としてどういう樹を育てたいと考えているかを的確に把握しておくことが大切です。 生計向上のために植林に関心があるのか、環境保護や持続可能な森林保全のための植林なのか、目的を明確にし、植樹後にメンテナンスが必要であることを受益者に説明し理解してもらう必要があります。植えっぱなしでは苗木の生育は期待できません。 生物多様性の減少を実感しているにもかかわらず、残念ながらコミュニティの人々の関心は野生生物の保護に対しては高くありません。 日常生活に必要とされているものを優先し、無意識のうちに環境への悪影響を無視しているというところもあると思います。 コーヒーを主な栽培樹種としたアグロフォレストリー農園における生態系保全に関するセミナーでは、木を植えることで、野生生物の生息地を作り、野生生物の保護、生物多様性の維持につながっていることを実感してもらえたと思います。このテーマは、受益者やコミュニティにとっては目新しいものであったため、受益者はまだその価値を見定めるために学んでいる最中と言えるでしょう。 野鳥観察を地域の環境保全の状況を知るための調査方法に取り入れることは、新たな試みでした。環境教育プログラムや環境自然資源省(DENR)による生物多様性の豊かさと保全のためのプロ―モーション戦略となりえると考えます。生物多様性保全のキャンペーンを継続することで、環境や森林保全につながるコミュニティの意識を高めることができるでしょう。 この事業の受益者であったSFACのメンバーからは、次のようなコメントがありました。 - 野生動物を保護することの大切さを学んだが、状況によってはコントロールできないこともあります(サヨテの農園や野菜畑が森林破壊につながる)。お金のことばかり考えている人を説得するのは正直難しいと思います。 - このプロジェクトは良いと思います。私は、自分たちのために、環境のために、野生動物のために、木やコーヒーを植えています。CGNが果樹の苗木も提供してくれれば、アグロフォレストリー農園からはコーヒーだけでなくほかのものも採れるようになります。 - 単作ではなく、間作を行うことで生物多様性を保全することができますが、現在の農業スタイルでは、農家はより良い収入を得るために換金作物の単作を好んでいます。 -私たちはこのプロジェクトの対象となれて幸運でした。このプロジェクトで空き地に植樹をし、コーヒーの植え替えもできました。私たちが今しなければならないことは、それらの面倒を見て育てることです。 今後、コーヒー、レモン、サヨーテなどから作る加工品の製造方法や、質の高い商品や量の多い商品を生産するための技術を向上させることができるようなプロジェクトなど、農業に関連した生計向上事業を実施してくれたらうれしいです。 SFACのメンバーはすでにアグロフォレストリー農園を持っています。環境を守りながら質の高い商品を生産するための新しい技術や戦略、生産に関する知識を提供することで、より強いエンパワーメントを受け、モチベーションを高め、コミュニティ全体に影響を与えることができるかもしれません。 また、メンバーを管理する組織の能力を強化することも重要です。 協同組合のビジョン、使命、目標は組合員一人一人に浸透させなくてはなりません。各組合員の団結力、責任感、忍耐力によって組織の方向性は決まり、成果につながります。組合メンバーは協力し合うことが必要です。
by cordillera-green
| 2020-06-27 17:12
| 植林/アグロフォレストリー
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