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2023年 02月 16日

CORDILLERA FOLKTALES –子供たちのための環境&アートワークショップ【タジャン編】


 りそなアジアオセアニア財団環境助成を受けて実施中の「フィリピン・ルソン島北部山岳地方における地域の民話をベースとした環境教育教材としての民話絵本制作プロジェクト」は、1年目を2023年3月に終了しました。計画では本づくりまでを初年度に終わらせる予定でしたが、語り部たちに語られたカンカナイ語の民話の書き起こしと英語訳に苦戦して、本づくりとあらすじ付きのYouTubeとPodcastの公開は2023年度に繰り越しました。


 以下に、2022年度に終了した民話の収集とアートワークショップの記録を掲載します。

※民話の内容は掲載時点でのもので、カンカナイ語の英訳の最終チェックが入る前のものとなっています。



プロジェクトの目的

 ルソン島北部のコーディリエラと呼ばれる山岳地方にさまざまな先住民が暮らしている。自然と共生する古来の暮らしを営んできた先住民たちであるが,近年グローバリゼーションの波にのまれ,自然と共生するための叡智を失い,森林破壊を促進して現金収入を得られる野菜栽培への転換のスピードが急激に加速している。

 気候危機が叫ばれ,世界各地で災害が多発する今,先住民が伝えてきた自然とのバランスを取った暮らしの在り方から,私たち先進国の人が学ぶべきことは多い。しかし,当の先住民たちはその貴重な叡智を捨て去り,都市の消費型生活へのあこがれを募らせている。

 当事業では,森林の無計画な破壊が急激に迫りつつあるマウンテン州タジャン町を事業地に,先人の伝えてきた物語(民話・伝承)をテーマとして,次世代を担う子供たちに地域の自然と伝統文化の豊かさに改めて気づきを与えることを目的とした。


当該プログラムの概要

 プロジェクトでは2022年6月にタジャン町の民話・伝承の語り部の調査を行った。それをもとに,タジャン町の8つの小学校においてそれぞれの地域に伝わる民話をテーマとした,子供たちを対象とした環境&アートワークショップを開催した。

プログラムは以下の三部構成で行なわれた。


  1. 環境教育ワークショップ

  2. 民話の語り部によるストーリーテリング

  3. 民話をテーマとしたアートワークショップ


 環境教育ワークショップは,フィリピン人の環境教育ファシリテーターが担当。アートワークショップは,日本から高濱浩子さんを招へいし,フィリピン人アーティストのジョージ・ロサレスとともにファシリテーターをお願いした。


実施日と会場と参加者

日にち

会場

参加人数

語り部と物語

2022/11/24

Kayan Elementary School

28

Alma ”Gawani”Paulo

「Daliliyan」

2022/11/25

Tue Elementary School

環境教育111

アート 20

Ben &Asuncion Baglao

「Kaag ken Baggilang」

「Bakas ya Pagong」

「Papaama ya Papaiking」

2022/11/28

Egan Elementary School

環境教育57

アート 20

Fortunata Guiamas

「NanKadat-atan di Danum ad Tadian」

2022/11/29

Batayan Elementary School

環境教育60

アート20

Santiago ”Igo”Pooten Siplat

「Orphaned Sibilings」

「Lumawig’s Water」

「Words of Wisdom」

2022/12/02

Balaoa Elementary School

環境教育72

アート33

Kimanga Yabba

「How Balaoa Came to Be」

Lug-lugammit(Bag-Bagto)

2022/12/05

Cabunagan Elementary School

64

Nelson Vargas

「How Cabunagan Got Its Name」

「Bayas」

「Botatew」

「Baku」

2022/12/06

Sumadel Elementary School

環境教育86

アート40

Bernardo Lipago

「Ngilin」

「Begnas」

「Tulod di Sakit」

「Boso」

「Botatew」

「Dagem-Wind Story」

2022/12/07

Tadian Elementary School

20

Fortunata Guiamas

[Agayen Tree]


スタッフ


環境教育ファシリテーター:

Lily Jamias

Leemar Damuasen

Shane Daweg

Hector Kawig

Bentor Ganado

Yurie Nhel Cadangen


アートファシリテーター:

高濱浩子

George Rosales


ビデオ撮影&編集

Rainel Lee & Gladys Maximo (SDS Multimedia)


写真:

Gladys Maximo (SDS Multimedia)

Masto Ushimaru


記録&シノプシス(あらすじ)

Yurie Nhel Cadangen


カンカナイ語書き起こし&英訳:

Gawani Domogo Gaongen

Fortunata Guiamas

Dom-an Macagne


再話:

Dumay Sollingay


日本語翻訳:

反町眞理子


コーディネーター:

Yurie Nhel Cadangen

Lily Jamias

Bentor Ganado


プロジェクト・ディレクター:

反町眞理子 (Cordillera Green Network Inc.)


助成 Granted by:

りそなアジアオセアニア財団

Resona Asia Oceania Foundation

イオン環境財団

Aeon Environmental Foundation


協力Supported by

手をつなごうアジア

Te wo Tsunagou Asia


タジャン町自治体

Municipality of Tadian


プロジェクトのビデオ・レポート(約8分)

【日本語字幕】



【英語字幕】

https://youtu.be/5-7OtSoiuVM?si=7v54hU3Rb0XhJp4I


〇2023年11月24日 

カヤン小学校Kayan Elementary School


 スタッフとファシリテーター一行はカヤン小学校に向かい、8:00前に現地に到着した。

 参加した児童は5年生の28名。まず、出欠を取り、名札を渡した。そして、スタッフは一人ずつ自己紹介し、この日の活動内容とその目的を発表した。

 まず、参加者が自分の名前の頭文字で始まる生き物を考え、名札の裏に描くというアクティビティが行われた(例:名前:ジョン|生き物:ジャックフルーツ)。その後,生徒たちはグループになり、グループごとに画材が配られ,それを使ってその生きものを描いた。

その後,生徒たちは校庭に出て,描いた生き物とナイロン製の長い紐を使って、「Web of Life(生命の網)」というアクティビティを行なった。これは生徒たちが生態系ではすべてのものがつながっていることを学ぶことを目的としている。その後、5つのグループに分かれ、自然のものが入っている紙袋に中を見ないで手を入れて触覚でそのものを感じ、自然の中で同じものを探す「ミステリーバッグ」というアクティビティを行った。振り返りで,生徒たちは、「手触り、大きさ、形、色によって、すべてのものが違うということを学んだ」と話していた。


 その後、生徒たちは部屋に戻り、地元の語り部であるガワニおばあさんから「ダリリヤン」の物語を聞いた。その後、アート・ファシリテーターの一人であるジョージ・ロザレスさんが水彩絵の具の混ぜ方に関する講習を行った。ジョージさんは,各生徒にパレットとなる紙皿と絵筆を渡した。生徒たちは3原色の絵の具のだけを混ぜて色を作り,よく観察しながら葉っぱを画用紙に描いた。


 昼食後、メインのアート・ファシリテーターである高濱浩子さんが自己紹介をし、生徒たちに日本の童謡を歌った。そして語り部のガワニおばあさんが話した物語のあらすじの振り返りを行った。その後、生徒たちはそれぞれ紙皿を渡され、自分なりの解釈や想像で物語「ダリリヤン」に登場するサルの姿を描き,フェイスマスクが作った。さらに、マニラぺ―パーをくしゃくしゃに丸めてサルのしっぽを作りひもで体に括り付けた。会場である部屋の中で、環境教育ファシリテーターの一人であるレマールさんがサルの動きがどうであるかを演じて見本を見せ,生徒たちもおのおのにサルの動きを模した。その後、みな屋外の屋根付きの運動場に出て、物語に出てきた大きな木を,高濱さんのファシリテートで自由に描いた。

 最後にワークショップで使わなかったすべての画材一式が校長先生に手渡された。


「ダリリヤン」のあらすじ

イエミーマンとカスンダンという夫婦に双子の男の子が生まれた。一人の男の子の腕には痣があった。「これは縁起が悪い」と、二人はその赤ん坊を森に連れて行き、ダリリヤンの木に縛り付けて置き去りにした。ブランガンという名の猿がその子を見つけ、家に連れて帰った。そして、その子をダリリヤンと名付けて育てた。


ダリリヤンは丈夫によく育った。彼は辛抱強く学び、勤勉に働いた。彼はバンガンという名のとても美しい娘のことを話に聞いた。二人は出会い,バンガンは身ごもった。バンガンの父マディルアワンは、ダリリヤンの父親に会いたいと言った。

「でも、私の父は猿なのです」とダリリヤンは応えた。

マディルアワンは「かまわない」と言った。

ダリリヤンは家に帰り、父親のブランガンに一緒に来てほしいと頼んだ。ダリリヤンは、犬がブランガンに危害を与えないように気をつけると約束した。

ブランガンは出かける前に、木の皮で作ったダリリヤンの服を脱がせた。それ以来、ブランガンはダリリヤンをガタンと呼ぶようになった。


ラウィガンというボクシングの伝説的な選手がいた。どんな試合でも彼に勝ったものはいないという。それを聞いたガタンは、ラウィガンに挑戦することにした。二人は戦い、ガタンが勝利した。勝者が発表され、ガタンが腕を上げたとき、イエミーマンはガタンの腕にある産毛の跡に気づいた。


ラウィガンの親であるイエミーマンとカスンダン夫婦は,マディルアワンに、「あなたはガタンの父親ですか?」と尋ねた。「私は義理の父です」と,マディルアワンは答えた。

ガタンは「私の父はブランガン・アド・ランバヤンと言います」と言った。


夫婦はブランガンに会うことにした。ブランガンは「ランバヤンで赤ん坊だったガタンをダリリヤンの木から連れ出したのは自分だ」と打ち明けた。

夫婦は自責の念に駆られた。そして不運をもたらすと思ってガタンをそこに置き去りにしたことの許しを乞うた。ガタンとラウィガンの兄弟は抱き合って再会を喜んだのだ。

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〇2023年11月25日  

トゥエ小学校Tue Elementary School


 午前8時前、スタッフ&ファシリテーター・チームはトゥエ小学校に到着した。校庭では子供たちが待ちかまえていて、参加者とファシリテーターを日差しから守るため、楽しそうにテントを張っていた。国旗掲揚と国家斉唱が行われ、フィリピンへの誓いを唱え、コーディリエラ讃歌とタジャン讃歌も歌われた。

 校長先生から、幼稚園から6年生までの全生徒の環境教育への参加を要請され、午前中は,急遽,全校生徒111人を対象に環境教育プログラムを実施することになった。語り部であるベン・バグラオさんはすでに学校に到着し、妻のアスンシオンさんも少し遅れて到着した。夫妻は自宅に来客がある予定ということで、朝一番の活動として民話の語りを全校生徒を対象に行った。ベンさんは、「猿と亀」の話をした。続いて、パパママとパパイキンを主人公とする「指の兄弟」の物語が語られた。アスンシオンさんは、バグバグトゥBagbagtoのチャント(朗誦)を披露し、その後、午後のアートワークショップで使われた「サルと赤い首の鳥バギラン」の物語を話した。


 環境教育ワークショップでは100人以上の全校生徒をワークショップの対象とすることになり、すべての生徒が楽しめるようなアクティビティに内容を変更した。まず最初に生徒がお互いを知るための「Arrange Yourselves According to」(年齢、生年月日、名字、父親の名前など)というゲームを行った。次にファシリテーターからグループごとに身近にある自然のものを1つずつ集めてくるように指示が出された。小石、乾燥した葉、生の葉、花、乾燥した茎など。そして、それらのアイテムを集めて、体を使って一番長い列を作るというゲームを行った。生徒たちは、自分の体を使って一番長い列を作る方法を見つけたり、集めたものを並べたりして、列を長くすることを楽しんだ。最後のアクティビティは、グループで協力し合うことを学ぶゲーム。手をつないで地面に座り、3つ数えたら全員が同時に立ち上がるゲームである。一人が取り残されたら、別の方法を見つけ、同時に立ち上がるテクニックを身につけるというものだ。生徒たちは歓声を上げながらこれらのゲームを楽しんだ。


 休憩の後、スタッフは生徒たちに画用紙を配った。アート・ファシリテーターのジョージさんが色の混ぜ方を教えた。絵の具がグループごとに配られ,生徒たちは親指と小指(パパアマとパパイキン)でスタンプ遊びをしたあと、人差し指だけを使って、紙の上に自然のあらゆる形を描いた。花、葉っぱ、家、山、木など。

 午後は、各学年(幼稚園から小学校6年生まで)から4名ずつが選ばれ全部で28名の生徒たちが、アート・ワークショップに参加した。各学年から1名ずつメンバーで一つのグループを作った。アスンシオンさんが話してくれた「Kaag and Baggilang(サルと赤い首の鳥バギラン)」の内容を振り返り,物語の中に出てきた生きものたちを皆で思い出した。スタッフがグループごとに画用紙と画材をくばり,物語に出てきた鳥、猿、南京虫、にわとり、灰、うんち、すりこぎ、蜂などを描いた。

 アートワークショップの後、作品の写真撮影が行われ、学校からファシリテーターとCGNスタッフに活動に対する感謝状が授与された。


民話「パパアマとパパイキン」のあらすじ

 パパアマとパパイキンのお話。二人は毎日一生懸命に畑を耕している。しかし、朝になると畑は雑草で覆われている。その原因を探るため、二人は夜のうちに畑を覗いてみることにした。すると、ウトッ(ネズミ)が雑草に生やせと命令しているところを目撃した。パパアマとパパイキンが走ってウトッを追いかけると、ウトッは穴の中に入ってしまった。パパアマとパパイキンは、「出てこなければ、穴ごと燃やすぞ」と脅した。ウトッは、自分の家がどこにあるか教えるから、燃やさないでくれと頼んだ。

 ウトッの家に続くはしごは、蛇とムカデでできていた。ウトッはパパアマとパパイキンが通れるようにハシゴを静止させた。家の中に入ると、ウトッは「食べ物を作るから見るな」と言った。パパアマは忠告を聞かずにウトッの様子を覗いた。そして,ウトッがレダン(棒)とアコド(木製の杓子)を使って料理を作っているのを見た。 ウトッがレダン(棒)に「キロッ、キロッ、メンバリン・カス・ギナダン」と唱えると,鍋の上に焼いた肉が現れた。アコド(木の杓子)を使って、「アコド、アコド、メンサポ・カアス・ビヌブ」と唱えると,鍋の上に炊いたご飯があった。 二人はそれを食べた。

 帰る前にウトッはパパマとパパイキンに何を持って帰りたいか聞いた。パパイキンはソリバオ(太鼓)と銅鑼が欲しいと言い、ウトッはそれらをあげた。 パパアマはレダンとアコドが欲しいと言った。ウトッは困って、これらは自分の生きていくのになくてはならないものだと説明した。しかし,パパアマは、レダンとアコドをどうしても持って帰ると言った。しかたなく、ウトッはこれらの大事な道具をパパアマに渡した。

 二人がウトッの家を出ると、ウトッは嵐を呼んだ。川の水が増えて、パパイキンの銅鑼とソリバオを押し流した。パパアマはレダンとアコドをなくさないようにしっかりと握りしめた。 家に帰ったパパアマは、ウトッにもらった道具を使ってみた。レダンは肉を、アコドは米を与えてくれた。だから,パパアマの家には、いつも肉と米があった。だが,パパイキンには何もなかった。パパイキンはパパアマの家に行って分け前を求めた。しかし、パパアマは何も分けてあげなかった。これは不公平なことだ。パパアマはいつも食ベものを持っていたのに、パパイキンは何も持っていなかったわけだから。


民話「赤い首の鳥バギランとサル」のあらすじ

 バギランとサルは友達だった。 ある日、二匹は言い争いになった。バギランは復讐に燃え、仲間のキテブ(南京虫)、ンギピル(ハチ)、カウィタン(雄鶏)、プラット(うんち)、ラヨ(稲をつく杵)を集めた。夜、バギランは彼らを家の中に配置した。杵は扉のところに置かれた。うんちは階段で控えていた。雄鶏は灰のある暖炉のところに。ハチはカランバ(粘土でできた水がめ)の上に,そして南京虫はデカン(竹や木で作られたベッドの間の空間)に隠れていた。 サルが寝ようとしたとき、まずは南京虫に噛まれた。目を覚まし南京虫を探すために松明を灯そうとすると、雄鶏が羽ばたいて囲炉裏の灰が舞った。その灰がサルの目に入った。サルは水がめ(カランバ)に顔を洗いに行ったが、そこで隠れていたハチに刺された。サルは外に出ようと思ってドアにたどり着いたとき、うんちを踏んで階段を滑り落ち、杵が落ちてきて彼を叩きのめした。 そして バギランは、その猿の肉をさばいて仲間に売ったとさ。


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〇2022年11月28日 

タジャン小学校 Tadian Elementary School

 タジャン小学校では57名の生徒が参加した。この日は,スタッフの反町,リリー,ユリー,グラディスが参加できず,環境教育ファシリテーターとして、ベントール(Bentor Ganado)とヘクター(Hector Kawig)が加わった。

 まず環境教育アクティビティ「Web of Life(生命の網)」を行った。この活動では、生徒がそれぞれ自分を表す生き物を考え、1人の生徒が輪の中央に立つ。その生徒は、自分を表す生きものが必要とする、あるいは必要とされる別の生き物と入れ替わる。すべての生きものがつながりを持って生きていることを示すゲームだ。

 タジャン小学校でも全児童を対象としたため、「Web of Life(生命の網)」の後に生徒たちを高学年と低学年の2つのグループに分けた。高学年は「ミステリーバッグ」のアクティビティ、低学年は身体を使って生きものや自然を表現する「タブロー」で、自然の質感、大きさ、形の違いを表現した。


 その後,生徒たちは語り部のナータおばさん(フォルトゥナータ・ギアマスさん)による「タジャンの水源」の物語に耳を傾けた。ナータおばさんは、自作のビジュアル資料を使って熱心に物語を語り、生徒たちは夢中で聞き入った。

 昼休みまでの30分を使ってウォーミングアップとしてアートワークを行った。机をロの字に繋ぎ合わせ全員で輪になり、一人一枚ずつ紙とクレヨンを持って、15秒間で何かを描き隣に回していき、次の人が描きたしていく。人数分の絵が出来上がった。みんなで一枚の絵を描くこと、考えるよりまず手を動かしてみることを体験し、最後に一人ずつ感想を言った。


 昼食後、参加者は20名となり、アートワークショップを行なった。まず、生徒たちは色の混ぜ方を教わった。大きな絵に挑戦する前に、紙の上に石で顔を描く遊びをし、紙と心を馴染ませる時間を持った、それからナータおばさんが語った物語を振り返り,水の大切さを考え、紙の中心には水源を描くレイアウトを共有した。生徒たちはそれぞれが登場人物のうち,竹、おばあさん、男、使用人、水、深い泉、金持ちの家、金持ちの男、その妻、木、山など、何を描くかを決めた。紙の中央の水源には全員で手のひらをプリントした。ファシリテーターは、水は私たちの命の始まりの場であるため、私たちの形を残そうと伝えた。最後に生徒は空いたスペースに色をつけたり、筆を振り下ろし色のしぶきを加えてエネルギッシュに絵を完成させた。


 学校での活動の後、ファシリテーターとスタッフはナータおばさんの案内で水源のある木の場所を訪問した。


「タジャンの水源」のあらすじ

 昔は、各家庭に水道ホースがなかったので、人々は水源まで容器を持って行って水を汲んで家に持ち帰った。ルアガンLuagan、ダヌムDanum、ガルンロンGalunglong、そしてパパクディーンPapacdeanに水汲み場があった。タジャンの北、南、西、東に水源を作られたカブニャン(山の神様)は,いかに賢明であったことか。当時はバケツがあまりなかったので、人々はボオ(boo:竹の略称、ボオと発音する)を使って水くみをした。


 あるとき、仕事から帰ってきたおばあさんは,とてものどが渇いていた。カランバ(土で作った大きな水がめ)には水が少ししか入っていなかった。おばあさんはその水を全部飲んでしまった。そこでボオ(竹筒)を持ってガルンロンに水を汲みに行った。しかし、金持ち一家の使用人が、ガルンロンの泉で水を汲むことは許されないと言って見張っていた。おばあさんは「なぜいけないのですか?ここは私の家の近くだし、ルアガンはちょっと遠いので、ここで水を汲む方が楽なのです」と言って水を汲んだ。

 その様子を聞きつけて金持ち一家の男がやってきた。「通行禁止の看板が見えないのか。愚か者め」と言った。おばあさんは申し訳なさそうに「字が読めないんです」と答えた。金持ちの男は「私には思いやりも辛抱もない。今汲んだ水の代金を払え。そうでないなら、牢屋に入れるぞ」とおばあさんに言い放った。

 おばあさんは、「お金がないから労働で支払います」と言った。金持ちの男は、朝早く来て庭の草むしりをするようにおばあさんに言った。おばあさんは汲んだ水を運んで家路についた。道中、白い髪の二人の女性に会った。「金持ちの男があなたにしたことを見ました」と二人の白髪の女性は言った。「私たちは立ち去った方がよさそうです」。この白髪の女性たちは、どうやら泉の水が姿を変えたものたちらしかった(水の精霊)。

 おばあさんは「行かないでください。あなたたちが行ってしまったら見張りをしている使用人がもっと苦しむことになるでしょう。使用人は何も悪いことをしていないのに、もし,泉が枯れて水がなくなったら,その使用人がいちばん苦しめられるのです」と言った。泉の水が姿を変えた女性たちはおばあさんに「いずれ戻ってきます。心配しなくていいですよ」言った。

 金持ちの男は使用人にガルンロンから水を汲んでくるように頼んだが、水はもう枯れてしまってなかった。男は水浴びをするために、いつでもその場ですぐにお湯が欲しかったのだ。それで男はガルンロンに鍵をかけて、誰も入れないようにしようとしていたのだ。使用人は泉の水が枯れる前に水を少し貯めていたので、その時は,金持ちの男の水浴びのために水を用意できた。

 使用人はガルンロンに戻ってみたが、まだ水がない。使用人は自分の涙でガルンロンが水で満たされることを願って泣き始めた。そこに,あのおばあさんが草むしりに来て、使用人に「なぜ泣いているのですか」と尋ねた。使用人は、「水がなくて家事に使えずどうしていいかわからないのです」と答えた。おばあさんは、カブニャン(山の神)様が水を与えてくれるから、助けを求めるように言った。二人は一緒に祈り、ガルンガンの泉に水が戻ってきた。使用人はとても喜んだ。


 一方、前の晩におばあさんが出会った白い髪の生きものたちは、ババラアンへ行っていた。二人はそこでおばあさんと使用人の祈りを聞いた。一人がもう一人に「あなたはここにいてください。私はガルンロンに帰ります」と言った。二人はこの地を散策していたのだった。そのおかげで,ベベアカンBebe-akanにも水源ができた。それが現在のカヤンの水源となったという。


 話は,ガルンロンに戻る。おばあさんは草むしりで疲れてしまい、おやつもないのでタバコを吸うことにした。その時、金持ちの男が痛みで苦しんで泣いているのが聞こえた。男の妻はどうしていいかわからず、おばあさんに助けを求めた。おばあさんはタバコの葉を取り、男のへそに当て、冷たい水を持って行ってチャントを唱えた。カブニャンは金持ちの男の叫び声を聞いて、白い髪の二人に何が起こったのか尋ねた。二人は山の神様に、「あの男は性格が悪くてわがままだから見放したのです」と言った。


 おばあさんは金持ちの男の腹に冷水を塗り、金持ちは眠りに落ちた。目が覚めると、妻がおばあさんがしてくれたことを話してくれた。金持ちの男は妻に、おばあさんを呼んできて食事を共にするように頼んだ。妻はすぐにおばあさんを呼びにいった。食事が終わると、金持ちの男はおばあさんに礼を言い、草むしりをやめて、家にあるバケツを持ってきて水を汲み持って帰るように言った。そしてガルンロンの水はみんなで自由に分けていいと言った。男は妻にバケツを用意して、人々が水を汲みにきたときに、そのバケツとボオを交換してあげるようにと言った。


 今日まで、ガルンロンの泉の水は湧き続けている。ルワガンの水は、田んぼの水や家畜の水源として利用されている。パパクディーンPapacdeanとベベアカンBebe-akanの水もまだ豊かだ。2000年、パパクディーンの水源地の上にあるSMAA(教会)の墓地が土砂崩落で浸食した。水が匂うようになったので、遺骨を別の場所に移した。ガルンロンで排泄した人がいたというが、その人は突然,気が狂ってしまった。霊を鎮めるために豚を供儀して霊に供え,その人は元に戻った。ブンガで道路建設が進むと、水源が枯れた。人々は水の精霊はついにこの地を離れたと考えている。だから、長老たちは「水に気を配りなさい」と言い続けているのだ。


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〇2022年11月29日 

バタヤン小学校 Batayan Elementary School


 参加する生徒数は20名の予定だったが、環境教育ワークショップには全校生徒の60名が参加することになった。「ミステリーバッグ」で自然の質感、大きさ、形、色の違いを楽しみ、「タブロー」で想像力を働かせて自然の地形、水の形、自然の要素を表現した。

 語り部のイゴおじさん(サンティアゴ・プーテン氏)は、「孤児の兄弟」「ルマウィッグLumawigの水」の物語を語った。


 その後、イゴおじさんの話を思い出し、カブニャン(山の神)のお面作りに挑戦した。子どもたちは紙皿とボンドが配布され、自分たちが持ってきた葉っぱや小枝、小石、花などを使って、誰も見たことがないカブニャンがどんな顔をしているか想像した。そして作ったお面をつけてグループごとにカブニャンを演じた。

 昼食後は、20名の生徒がアートワークショップに参加し、水彩絵の具の混ぜ方を教わった。

 机をロの字にし机ごとに背景を、山、川、海と分けた。そこに物語に登場する少年、少女、豚の膀胱、そして山や川や海にいる生き物も描いた。全員が席を一周して絵を見合い、空いている部分に何かを描きたしていった。完成後、絵を外に出して広げ、一人ずつ感想を言った。


「孤児の兄妹」のあらすじ

 両親のいない二人の兄妹の子供がいた。集会に行っても誰もかまってくれない。世話をしてくれるおじさん、おばさんもいない。二人の子どもは、どうしていいかわからない。可哀そうなことだ。二人は蟻でも何でも食べてしまう。

 誰かが儀式をしたり、集まりのために豚を屠殺したりすると、この二人の孤児も出かけていく。だが、気の毒に、誰も彼らに食べ物を与えない。豚の足の皮は食べられないので捨ててしまうのだが、それを二人に与えていた。かわいそうに。

 ある集まりで、二人は豚の膀胱をもらった。二人はこれをとても喜んだ。それで遊ぼうと川へ行き、ボールがわりにして遊んだ。すると水が膀胱を押し流し、彼らは膀胱を追って、川が海と出会う河口にあるカンドンまで行ってしまった。

 さらにボールを追って海辺へ、海へと進んでいったが、豚の膀胱は水に沈んで見えなくなってしまった。彼らは泣いた。

「私たちのおもちゃがなくなっちゃった」と泣いたのだ。

「どうやっておもちゃを取り返すことができるだろう?」

 もしかしたら、あのおもちゃはカブニャン(山の神様)がくれたものかもしれない。

 すると,キシンと名乗る女性が現れた。

「なぜ、ここにいるのですか?ここで何をしているのですか?」と孤児たちに尋ねた。

「ここにおもちゃにしていた豚の膀胱が沈んでしまったんです。私たちはそれを取り戻すことができません」と孤児たちは答えた。

「そうなのですね」とキシンは言った。彼女は杖を使って膀胱を探した。そしてそれを探しあてて二人の手に返した。

 キシンは孤児たちに「どこから来たのですか」と尋ねた。

「ずっと上のほうの山から来ました」孤児たちは答えた。

「家に帰りなさい。あなたたちの人生はとても悲惨です。あなたたちの魂は遠くにあります。あなたたちの存在は、あなたたちの肉体と一致していません。あなたたちの身体は空っぽです。だから、あなた方の人生は哀れなものになっているのです」とキシンは言った。

「家に帰りなさい。長老を探しなさい。そしてニワトリを捕まえて儀式を行いなさい。すべてうまくいくから。大きくなったら、もっといい暮らしができるはずです」とキシンは言った。


 孤児たちはスマデルに帰った。長老を探し、儀式を行うための鶏を手に入れた。

 長老は言った。「苦難の時はもう終わった。お前たちの魂は今肉体と一つになった。お前たちの命は今、祝福されている。すべてがうまくいき、お前たちは土を耕すために成長する。いろいろなものを植え、畑を耕し、繁栄することだろう」と。

 二人は言われた通りにした。孤児たちは成長し、結婚した。彼らの生活は豊かになった。

 これが「サップン・ディ・ペイペイ」(繁栄のための儀式)と呼ばれるものの始まりである。


「サポン・ニ・ウヤックールマウィッグの水」のあらすじSapon ni Uyek/ San Danum en Lumawig

 ある日、村人たちは畑に働きに行った。昼間に喉が渇いたが、畑に行く途中には水場がなく、水を持っていけなかった。畑の向こう側で誰かが働いていたので,大声で呼んだ。カブニャンの息子と思われるものが寄ってきて、「どうしたんだ?」と尋ねた。

「飲み水を持っていませんか?」と村人が尋ねた。

「水を汲める場所を知らないのか?」

「それがないのです」と村人は答えた。

「飲み水を探そう」とカブニャンの息子が言った。

 カブニャンの息子は杖を持って、地面に2つの穴をあけた。その穴から水が湧き出た。

「この上のほうの穴からは水を飲んではいけない。これは私が飲むためのもの。人間はこの下の穴から湧く水を飲みなさい」。

 村人たちは、最初は従っていたが、そのうち「なぜ、この上の穴から飲んではいけないのだろう」と不思議に思うようになった。ついに、彼らは禁じられていた上の穴からの湧き出る水を飲んでしまった。村人たちは気分が悪くなり、皆咳き込むようになった。

 カブニャンはその咳の音がうるさくてたまらなくなった。カブニャンは息子を呼んで、「お前が助けた人たちに会ってこい。咳がうるさくて困る。もし行ったら、タロイモの葉っぱをとるように言ってくれ」。

カブニャンの息子は言われたとおりに村に行った。そして村人たちに、「上の穴から飲むなと言ったじゃないか?」と言った。 村人たちは「あなたの言うことに従わなかった私たちが悪いのです」と謝罪した。

 息子は 「里芋の葉に水を注ぎなさい」と言った。 里芋の葉に水がいっぱいにし,おまじないを唱えて,その水を捨てた。そして,村人たちの咳は止まったのだという

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〇2022年12月02日 

バラオア小学校Balaoa Elementary School

 

 国旗掲揚式の前にスタッフ&ファシリテーター・チームはバラオア小学校に到着した。この日は風が強い朝だった。国歌斉唱の後、子供たち全員が参加して朝の体操が行われ、その後、チームの自己紹介と今日の活動内容が発表された。当初は参加する生徒の数は20名の予定だったが、学校側の要望で環境教育ワークショップは全校生徒74名全員参加となった。

 子どもたちは、自分の身体を使って、動物や植物、土地や水の成り立ちを「タブロー」で表現した。このアクティビティはグループごとに行われ、さまざまな要素で成り立っている環境を身体を使った絵で表現した。その後、6つのグループに分かれ、アクティビティ「ミステリーバッグ」を行い、自然の物理的な特徴を探求した。その後,同じグループごとに、さまざまな葉を集め、その葉を状態に応じて並べた。ファシリテーターは各グループを回り、自分たちが行った葉っぱのアレンジを説明するよう求めた。この活動を通して、生徒たちは葉っぱのライフサイクルを学んだ。


 続いてキマンガおじいさんが、「バラオアができるまで」の物語を語った。子どもたちは熱心に話を聞き、「もっと聞きたい」とリクエストした。キマンガおじいさんはそのリクエストに応え、ルグルガミット(韻をふんだ短い詩)や、「バグバグトゥ」などの朗誦を披露した。 アート・ファシリテーターの高濱浩子さんも、日本の歌を披露した。キマンガおじいさんは幼い頃(第二次世界大戦時)に覚えた歌を思い出し、「鳩ポッポ」の歌を歌った。子どもたちは、お話と歌を聞いて大喜びだった。


 高濱浩子さんはまず、みんなに自分の手のひらを見てもらい、子供たちに自分の手のひらには何が見えるかを話してもらった。子どもたちはぞれぞれ自分の手のひらを見ながら,想像力を働かせて、自分の手のひらにも山や川、文字、道、道などが描かれていると発表した。そして、コピー用紙とクレヨンが児童に配布され、自分の手の平の輪郭をなぞり、手相の線を写し取った。その後、環境教育ファシリテーターのレマールとシェーンがポーズを取り、児童たちは10秒間ですばやく描くクロッキーに挑戦した。

 昼食の後、各学年から選ばれた35名の生徒たちが、学校の図書館に集まって民話をテーマとしたアートワークショップとなった。参加者は7名ずつ5グループに分かれた。まずキマンガおじいさんの話した物語の内容の振り返りが行われ、どのように物語に出てきた豚の絵を描いていくかの簡単なデモンストレーションがファシリテーターによって行われた。ランダムに選ばれた子どもたちは、豚の体の部分を大きな画用紙に描くよう指示された。子どもたちは、その画用紙に豚の体の部位がすべて描かれるまで交代で順番に豚の部位を描いていった。そして、これらの部位をつなげて豚の姿を作った。子どもたちは、クレヨンの好きな色を使って、この作業を行なった。その後、水彩絵の具と指を筆にして、地域や自然の要素を空間に描いた。その後、各グループが自分たちの絵を発表し、子どもたちは自分のグループの作品について感想などを述べた。


「バロオアができるまで」のあらすじ

 この物語は、バラオア集落の誕生に関するものだ。この地域で雌豚が出産した。ほかの地域に住んでいる飼い主は雌豚を探しに来て、ここに水源があることを知った。豚がよい場所を示してくれたのだ。飼い主は豚が産まれた場所の近くに住むことにした。その後、他の人たちも追随した。 バラオアとは、豚の餌入れ、または水を貯める容器を意味する現地語である。 コーディリエラでは、コミュニティの起源として、妊娠した豚や犬を追ってその場所にたどり着いたという話がよく聞かれる

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〇2022年12月05日 

カブナガン小学校Cabunagan Elementary School

 

 カブナガンは、道路脇の坂道を登ったところにある。ファシリテーター&スタッフ・チームが到着後、国歌斉唱のベルが鳴った。校長先生からファシリテーターの紹介があり、生徒たちに活動の進め方が説明された。環境教育ワークショップには全生徒が参加することになり、2つのグループに分けられた。高学年の生徒は「Web of Life(生命の網)」のアクティビティを通して、生態系の中ですべてのものがどのようにつながっているかを楽しく学んだ。その後、小グループに分かれ、目隠をして動物の鳴き声から仲間を見つけ、グループに加えるというアクティビティを行った。最後にみなで大きな輪になって、その動物が生きていくために必要なものや、捕食者になりうる生きものを探した。その後、小さなグループに分かれ、それぞれのグループが「タブロー」で,自然を構成するさまざまな要素を表しながら、生態系を形成していることを身体を使って表現した。


 全校生徒が集まり、ネルソン・バルガスさんから「カブナガンという地名の由来」の物語を聞いた。生徒たちは大喜びで、もっと聞きたいと何度も言っていた。ネルソンさんは、子供たちの要望に応え「バヤス」、「ボタテウ」、「バク」の物語を話してくれた。

 そして、生徒たちは、屋外に出て好きな葉っぱか花を選んで持ってくるという課題を与えられた。生徒たちに紙皿、絵筆、水彩絵の具、スケッチ用紙の半分の大きさの画用紙が渡された。絵の具の色の混ぜ方を教わり、手に入れた葉っぱや花の色を真似て、色を作る練習をした。

 午後の部も全生徒が参加することとなったため,校庭に教室から生徒たちの手によってテーブルが持ち出された。生徒たちは,低学年から高学年までを縦割りにして5つのグループに分けられた。画材が配られ、ネルソン氏の語った物語をもとに、当時のカブナガンをイメージした絵を描くように指示された。絵を描く前に、物語のあらましが再度振り返られた。最後に、各グループが作品を発表し,お互いの作品について感想を伝えあう機会をもった。


「カブナガンという地名の由来」のあらすじ

 当時は、ダニーという人の住む古い家に人々が物を運び,物々交換をしていた。そこは人々が農産物や 商品などあらゆるものを運ぶ場所だった。だから、みんな「ブン―ブナガン」(ブナガンは「運ぶ」という意味)とその場所のことを呼んでいた。そしてやがて、「カ―ブナガン」 に行こうと言うようになった。そしてこの集落をカブナガンという地名にすることを思いついた。当時、ボントックやセルバンテスなど近隣の町から来たザンブラノ・トラックがダニーの家に立ち寄り、この場所で物々交換を行っていたことからカブナガンという地名がつけられたというわけだ。

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〇2022年12月06日 

スマデル小学校Sumadel Elementary School

 

 この日はファシリテーター&スタッフ・チームは国旗掲揚のあとに学校に到着した。全校生徒が屋根付きの校庭に集まり、活動の内容についてのオリエンテーションが行われた。ファシリテーターとスタッフが紹介された。この日はボランティアの反町樹歌さん、愛知県立大学多文化研究所研究員の日丸美彦氏もチームに加わった。

 

 午前中は幼稚園と1年生で一つのグループ、2年生と3年生で一つのグループ、4年生から6年生までで一つのグループの3つのグループに分かれて環境教育ワークショップが行われた。

 幼稚園と1年生のグループは、レマールさんがアクションを交えて「グマリンガンの冒険」の読み聞かせを行った。その後、生徒たちは動物の絵を描き、その鳴き声を真似るというアクティビティを行った。そして、山、花、動物、木、石を自分の体を使って表現した。最後に円陣を組み、先ほど描いた動物の鳴き声を真似しながら歩いた。さまざまな動物の鳴き声や動作を真似することを子供たちはとても楽しんだ。

 1年生と2年生は「Web of Life(生命の網)」のアクティビティを通して、すべてのものがどのように関係しているかを楽しく学んだ。また、目隠しして動物の鳴き声を模し仲間を見つけるというアクティビティも行った。また「タブロー」も行なった。

 高学年のグループは、まず、陸、地下、空中、水中に住む動物を色鉛筆で描いた。一人一人が描いた絵は、色ごとにグループ分けされた。次に、グループで動物を描き、身近にある材料でその生息地を再現した。このアクティビティは8人ずつの4つのグループに分かれて行われた。生徒たちは自分の身体を使って動物となり、その動物の棲み処である自然の中にある様子を表現した。最後に自分たちで作った生息地を解体し、自然界には「リプレイス&リターン」という考え方があることを学んだ。自然から何かを得たら、これは必ず交換しなければならない(例:木を切ったら、また植えなければならない)という考え方である。

 語り部のベルナルド・リパゴさんは、たくさんの物語を用意して学校にやってきた。Ngilin、ベグナスBegnas(収穫の感謝の儀礼)、Tulod di Sakit(コミュニティで病気になったときの対処法)、Boso(敵)、Botatew(灯り)など,スマデルに伝わるたくさんの物語を話してくれた。

 

 午後は、4年生から6年生の生徒たちとともに、リパゴさんの物語に出てきた不思議な木パパタヤン(Papatayan)を見に行った。この場所では、ベグナスの一環としていくつかの儀礼が行われてきた。この木はサンギロの木で、何世紀も前からそこにあると信じられている。スマデルのコミュニティはこの場所をエコパークに指定しこの巨木を保全している。生徒たちは、鉛筆と画用紙を渡され、この木の好きな部分をスケッチした。

 生徒たちが学校に戻った後,スタッフはリパゴさんにスマデルに伝わる「風の神」についてのストリーテリングをお願いしビデオに収録した。


 学校の屋根のある校庭に戻った生徒たちは。アート・ファシリテーターに色の混ぜ方を教わり、学んだばかりのそのテクニックを使ってエコパークでスケッチした木に色を塗っていった。色付けが終わったら、スケッチを切り取って、大きな白い紙に貼り付けた。同じように,コミュニティにいる動物、生きる糧であるお米を作る田んぼも水彩絵の具で描き,大きな紙に貼りつけた。最後に大きな紙の白い部分に,スマデルで伝わる風の神の物語にちなんで,渡る風を水彩絵の具で自由に描いた。

 参加者と教員,チームでの写真撮影の後、日丸氏が日本から持参した,紙風船などのお土産が子供たちに渡され,子供たちはいつまでも名残惜しそうに校庭で遊び続けていた。


「スマデルのベグナス」のあらすじ

 昔は、ベグナスを感謝の儀式として行い、地域が平和で健康であることを祈った。

 朝4時、長老たちは森で薪を集め始める。ベグナスは,まずはダップアイDap-ay(集会所)から始まる。長老たちは座って、動物が目の前を通らないかどうか観察する。これを「ラベグLabeg」と呼ぶ。もし動物が通れば、長老たちは儀礼を続ける。通らない場合は、戻って「トゥテンTuteng」と呼ばれる儀礼を行う。この儀礼では,まず、鶏を供儀する。内臓を開いたとき,胆嚢が出ていて、肝臓に少し覆われている鶏を探す。これを「シルウィットSilwit」と呼ぶ。また、動物が通ったとしても、その動物が下方に向かっていった場合にも儀礼を行う。この場合は、胆嚢が肝臓で完全に覆われている鶏を探す。これをエクバン(Ekban)と呼ぶ。その後に、祭り(ベグナス)が続けられる。

 ベグナスの3日目にはパパタヤンPapatayanに、小さな豚を連れていく。生後3〜4ヶ月の在来種の豚である。若者たちが太鼓を鳴らし、長老が「地域が平和で、健康で、助け合えるように」と祈りを捧げる。豚を供儀した後、祭りは午後6時ごろに終了する。

 

 もう一つ、1日で終わる儀礼に「ガウガウGawgaw」というのがある。これは、コミュニティ内で疫病が流行した場合に行われる。あるとき、気の狂った4人の人がいた。そのうちの2人は誰かを殺した。他の人は事故を起こした。そこで長老たちはガウガウを実施することにした。彼らは川(DayagまたはKawat)へ行き、水が悪い気を洗い流してくれることを願って水浴びをする。

 「トゥロッドTulod 」という儀礼もまた、コミュニティ内の病気を追い払うために行われる。卵と先の尖った棒を持ってスマデル内のある田んぼに行く。そして、アブラ川が流れていった先にある河口「バナワン」まで病気が下りていくようにと祈りを捧げる。これは1日以内で終わる儀礼である。


「スマデルの風の神」のあらすじ

 ウバヤ(Tengaw)と呼ばれるこの地域の休日では、誰も働くことを許されていない。しかし、ある母親は料理をする食べ物が何もなかったので、サツマイモを掘るために畑に行った。すると、5人の大きくて色の黒い男たちが現れた。そのうちの一人が、「ウバヤの休日なのに、なぜ外で働いているのか」と尋ねた。母親は、自分たちには食べ物がないから、外に出てサツモイモを掘るしかなかったのだと説明した。男たちのリーダーは仲間たちにその母親の家を見に行って、その話が本当かどうか確かめるように言った。仲間たちは戻ってきて、その母親の家には食べるものがなく、二人の子供が空腹で泣いていたと告げた。リーダーは、その母親を助けるように言い、母親のかごはあっという間に大きなサツマイモでいっぱいになった。

 母親がたくさんのサツマイモをかごに入れて家に帰ってきたのを,近所の女性が見ていた。その女性は、こんなに早くサツマイモを収穫でき、しかもそれらがとても大きいことに驚いた。母親はその女性に5人の色の黒い男たちに会った話をした。その女性は、次のウバヤで自分も同じことをしようと考え,その母親がしたのと同じようにサツモイモを取りに行った。リーダーは、前と同じようにその女性の家が貧しいかどうか確かめてくるように、仲間たちに頼んだ。戻ってきた仲間たちは、その女性は裕福で、家にはたくさんの食べ物があるとリーダーに告げた。リーダーはその女性の嘘に腹を立て、仲間たちにその女性を吹き飛ばすように言った。その女性は、アキキの近くのひまわりがたくさん咲いている崖に吹き飛ばされた。その女性はその後も生き、風の神に吹き飛ばされた話を地域の人に伝えていった。


(備考)

 その後,スマデルの人々は、アキキで風を鎮めるための儀式「バダンガウBaddangaw」を行ってきた。語り部のリパゴさんが見に行ったとき,高齢の女性たちがこの儀礼に参加していて、目に見えない何かと踊っていたという。風の神と一緒に踊っているようだが、誰もその姿を見ることはできなかった。リパゴさんには女性たちが楽しそうに見えない生きものと踊っているように見えたという。踊りながら、女性たちはおしゃべりをしていたそうだ。

 

 以前、道路が整備されていなかったころは、この儀礼に米とエタグ(豚の燻製)を持っていった。エタグを油で揚げずに炒めると、エタグの脂がでる。その脂でご飯を炒め、チャーハンのようにする。それを儀礼の場所に持って行ったそうだ。そして、持ってきた米を食べるのである。残ったものは家に持ち帰った。


 道路ができたときは、道路の上のほうにある松の木と大きな岩があるところでその儀礼を行ったそうだ。岩の上に女性たちが集まった。もう踊りはしなかったが、風と楽しそうにおしゃべりをしていたという。しかし,リパゴさんたちには風を見ることはできなかった。

 年配の女性たちが亡くなり、その儀礼を伝え、行うことができる人たちがいなくなり,バタンガウはすでに行われなくなってしまった。


 風に関しては、スマデルに行って見れば一目瞭然で、スマデルが風の吹く地だと知るだろう。人が飛ばされないまでも、強い風が吹けば稲が揺れ、稲穂から米粒が落ちる。

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〇2022年12月07日 

タジャン・セントラル・スクール Tadian Central School


 この日はタジャンでのワークショップの最終日だった。チームは宿泊先であったラヨグ・カントリー・ファームを早めに出発した。学校に到着すると、参加者として選ばれた生徒たちはすでに図書館に集まっていた。参加者は,3年生、4年生、5年生、6年生からそれぞれ5名ずつが選ばれていた。

 朝一番のアクティビティは、ナータおばさん(フォルタナータ・ギアマスさん)によるストーリーテリング。ナータおばさんは、この日のために念入りに準備をし,物語に出てくる小道具や,子供たちの理解に役立つ写真などを用意し,カンカナイ族の民族衣装で登場した。まず、生徒たちがカンカナイ語の古い用語に馴染みがないことを心配して、いくつかの単語をホワイトボードを使って解説してくれた。そして、「アガイェンの木」の物語を話した。


 最初のアクティビティでは,物語にでてきた大きな岩に生えた木の立体的な絵を、与えられた材料と自分の身体を使って再現した。このアクティビティは学年ごとにグループになって行われた。次に、各グループごとに屋外から自然の材料を集めてきた。そしてそれらを分けられた紙にその素材の特徴を活かして貼り付けた。質感や構図が異なる素材を組み合わせて、ひとつの木が形作られているということを学ぶアクティビティだ。その後、参加した生徒たちは生き物とそうでないものの名前が書かれたネームカードが渡され「Web of Life(生命の網)」のアクティビティが行われた。


 アート・ワークショップでは、生徒たちはまず色の混ぜ方を学んだ。次に、葉っぱや花を屋外から集めてきて、その色を絵具を混ぜて忠実に表現して画用紙に描くように指示された。その後、みなで大きな紙に「アガイェンの木」の物語に出てきた世界を表現した。まず、真ん中の大きな岩から描き始め、次に両脇の川を描いた。そして、色づくりのワークショップで描いた絵を切りとって、大きな紙に貼り付けた。最後に紙皿パレットに残っていた絵具を手のひらにつけ、大きな紙の余白に手形をプリントした。この手形プリントは、物語に出てくるアガエンの木の根を表現した。


「アガイェンの木」のあらすじ

 昔々、アネス、プンゲット、シンブコという3人の兄弟が住んでいた。長兄アネスは、背が高くてやせていてかかしのような顔をしていた。真ん中の兄のプンゲットは、蛙のような大きな目をしていて、丈夫で健康。末っ子のシンブコは背が低くてお腹が大きく、いつもたくさん食べて、仕事は嫌い。一日中寝ているのが大好きだった。

 アネスは働き者で、米、豆類、カボチャ、ウベ(紫芋)、サツマイモなどを多く栽培している。収穫の時期になると、近所の人たちを呼んで、農作物を集めるのを手伝ってもらっていた。プンゲットは猟師で、野豚、鶏、鹿などさまざまな野生動物を仕留めて家に持ち帰る。川の近くに小屋を構えるシンブコは、いつも「プロット」と「ランパカ」を捕まえているが、「ダリット」と「ティラピア」は獲ってこない。

 父親は、なぜ自分が教えたように漁をしないのかと問いただした。兄たちはシンブコが怠け者だと言っているが、母親は「シンブコはまだ大人になっていないからね。勤勉さの価値がわかっていないのだ」とシンブコの肩を持ってきた。

 

 ある年、村は飢饉に見舞われた。そのため、家族は、食事の量を減らすように言われた。しかし、常に満腹でなければ満足しないシンブコには無理なことだった。

 ある日、アネスはシンブコに「網を持っておいで。川に漁に出よう。おまえが川で魚を釣ってこないから、魚たちはきっと大きくなっているはずだ」と言って誘い出した。川につくと,アネスは大きな岩を持ち上げ、シンブコにその下に潜り込んで魚を捕るように言った。アネスはその大きな岩でシンブコを押しつぶそうとしたのだ。先に家に帰ったアネスは,シンブコはもう帰ってこないと思っていた。しかし,午後になって、シンブコが大きな岩を担いで帰ってきた。父は、その岩を庭の前に置き「母さんは重いものをその上に置けるな」と言った。

 また別のある日、プンゲットがシンブコに向かって「斧を持て。森に薪を集めに行こう」と言って森に誘った。プンゲットは森でシンブコに「木が倒れるように縄を引け」と言った。プンゲットは、シンブコが木につぶされて家に帰れなくなることを知りながら、シンブコを置き去りにして家に帰った。しかし,またもや、午後になってシンブコが大きな木を担いで帰ってきた。一家はまたまた驚いた。父はまた「その木を大きな岩の近くに植えるように」と言った。「そうすれば仕事を休んだときに、その木を使って小屋を作ることができるだろう」と。

 飢饉がますますひどくなったが、シンブコが植えた木は実をつけた。実がたくさんついたので、竹筒を容器にして、その実を入れて叩いてやわらかくした。そうしてその実を食べられるようにしたのだ。食べ物がなかったとき、アガエンの木の実が村を飢えから救ってくれたのだ。

 その木は最初は「aga-ayen」と名付けられたが、後に「アガイェン」Agayenと略されるようになった。この木は、岩の上に生え,強風や大雨にも耐えることができる。そして、根元から水が湧き出て、神様の力を感じられる。今日に至るまで、この木は神聖な木として人々に敬われている。


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by cordillera-green | 2023-02-16 15:53 | 環境教育


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