2008年 12月 04日
バギオ市内にあるアートスペースVOCASで「SAKA SAKA」と題した現代美術の展覧会を開催中です(12月20日まで)。ドイツ人の作家がイフガオ民族の木彫り職人とのコラボレーションした展覧会で、たくさんの木彫りのクツを展示しています。イフガオ民族の素晴らしい伝統の技にはため息が出ます。 なぜ木彫りのクツの展覧会かというと、ドイツで最も知られているフィリピンは「イメルダ夫人の大量のクツのコレクション」だからだということ。また同時に、イフガオ民族を含む山岳少数民族とってはクツがとても特別な存在だからだそうです。 展覧会のオープニングで上映されていた自主制作ビデオは、バタバタしていてしっかり見られませんでしたが、バタッドというイフガオ族の棚田の村の若者がせっかく手に入れたクツを落としてしまう話だそうです。 そう、山岳民族にとって「クツ」は憧れの対象です。カリンガ族の山の村の小学校を訪問すると、クツを履いている子供は一人もいません。「スリッパ」と呼んでいるいわゆるゴムぞうりを履いている子がほとんど。残りは裸足です。履いているゴムぞうりも、すり減ってすり減ってそこに穴が開いているようなの、鼻緒の部分がなくてビニールの梱包用のビニールのひもなどで修理してあるもの、右と左と違うサイズ、違うデザインなど、まちまちです。中には、ゴムぞうりだけでなく、Tシャツさえ着ていない子もいますから、ぞうりが不ぞろいなんて何でもありません。 ↑カリンガ州の小学校。 山の村で育った夫のアーネルにとっても「クツ」は子供のころから「どうしても履いてみたい」憧れのものでした。山の村の小学校を卒業したアーネルは、なにがなんでも高校(フィリピンでは中学と高校が分かれておらず、小学校を出ると4年制の高校となります)に行きたかったのですが、山の村には高校がありません。親戚に頼み込んだら「家事や畑仕事の手伝いをすれば行かせてやる」と言われ、ジプニーで2時間ほどの田舎町・タブックの高校に働きながら通うことになりました(アーネルは当時まだ12歳です)。 しかし、さすがに田舎といえども、車やトライシクル(三輪タクシー)の通る町では、クツがないと恥ずかしい。そこで、父親がなけなしのお金をはたいて高校に行くことになった息子のためにはじめてクツを買ってくれたそうです。ところが、クツなんて買ったことのない父親が、買って来てくれたクツは、両方とも「右側」。家族みんなでお笑いしたそう。 値切りに値切って買った市場のクツ屋でようやく交換してもらって、右と左にそろったクツ。アーネルは、はじめて履いてうれしくてウキウキと学校に行ったそうですが、履いたことがないものだから足の痛いこと、痛いこと。帰りは校門を出たとたんに脱いで裸足で帰ってきたそう。 「タブックは日差しが強くて、午後、学校が終わる時間の、コンクリートで固めた道路はカンカンに熱かったけれど、なんでもなかったんだよね」 裸足で育った少年の足の裏はクツ底のように頑丈で、多少の熱さやデコボコにはびくともしないのでした。 初めてアーネルが日本に来た時、「家族や親戚におみやげを買わなきゃ」と言って向かったのはクツの安売り店でした。クツを履いたことのない家族や親戚一人ひとりの裸足の足を思い浮かべながら、「こんな大きさだよなあ」と持っている限りのお金を使って、たくさんの安売りのクツをおみやげに買っていました。 一度もクツを履いたことのないような山岳民族の人たちの裸足の足は、その顔と同じくらいにさまざまな表情を持っています。生まれてからずっと大地を踏みしめ続けてきた足。雨の冷たさも、日差しの熱さも、じかに感じてきた足。それは、「SAKA SAKA」展に並んでいた木彫りのいろいろなデザインのクツに匹敵するなあと思いました。 ↑ 山の村の子供たちの放課後の遊びはもちろん裸足で木登りです! なんとなく「SAKA SAKA」はイフガオ語かなんかでクツのことだろうなあと思っていて聞きそびれていたのですが、昨日、改めて聞いたみたら実はイロカノ語で「裸足」のことだそうです! (今回の山の子供たちの写真は、CGNインターンの松野下さんの撮影です)
by cordillera-green
| 2008-12-04 11:49
| 山岳民族の暮らし
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